ものづくり

フルカラー3Dプリンタ「HeyGears G1」がKickstarterで13億円超。塗装工程は本当に消えるのか

HeyGears のデスクトップ向けフルカラー3D&UVプリンタ「G1 シリーズ」が、2026年7月23日のKickstarter公開から約1か月で1,300万ドル超を集めた。造形ベッドから色付きのモデルを直接取り出せるという触れ込みだが、バッチ造形時間もプリントヘッド交換費用も未公開のままだ。

3Dプリンタメーカーの HeyGears が、フルカラーの3D造形・3Dテクスチャ・2DのUV印刷を1台に統合したデスクトップ機 G1 シリーズ を Kickstarter で公開した。ローンチは2026年7月23日で、8月18日時点で3,065人から13,072,483ドルを集めている。キャンペーンは9月11日まで続く。

HeyGears G1 シリーズのフルカラー造形サンプル(HeyGears 公式ストア)

売り文句は明快だ。造形ベッドから色のついたモデルをそのまま取り出せるので、出力後に手で塗る工程が要らなくなる。同社はこれを「世界初のデスクトップ・フルカラー3D&UVプリンタ」と位置づけている。個人クリエイターやフィギュア制作の現場にとって、「色は後から塗る」という前提が変わるなら影響は小さくない。

ただし、13億円を超える資金が集まっている一方で、購入判断に最も効くはずの数字がまだ公開されていない。

何ができる機械なのか

これまでデスクトップの3Dプリンタは、樹脂・FDMを問わず単色で出力し、色は塗装やフィルム転写で後から付けるのが一般的だった。フルカラー造形は産業用の大型機が中心で、価格の桁が違う。G1シリーズは、その「色を含めて一度に出す」工程をデスクトップ価格帯に降ろそうとする製品にあたる。

出力できるのは3種類。フルカラーの3Dモデル、盛り上がりのある3Dテクスチャ、そして平面へのUV印刷だ。フィギュア・模型・プロダクト試作・サインやパネルなど、色と質感が成果物の価値に直結する用途を想定している。

HeyGears 公式が挙げる主な仕様は次のとおり。

  • プリントヘッド: 産業用グレードの Epson i3200、3,200ノズルの高密度構成
  • インク: 8チャンネルUVインクシステム、液滴サイズ3.9pL
  • 解像度: 最大 1440 × 2400 DPI
  • 積層厚: 10〜20μm
  • 3Dテクスチャ: 最大10mm(公式推奨は5mm以下)
  • 退色耐性: 3年以上
  • 対応素材: 400種類以上のベース素材

造形エリアは、実機レビューによれば標準フラットベッドで 420 × 330 × 130mm。産業用インクジェットヘッドをデスクトップ機に載せ、8チャンネルのインクで色を作る構成が中心だ。

なお色域について、初期の資料では「約90%カバレッジ」という値が流通したが、現在の公式表記は「1,000万色以上」で、カバレッジ率は示されていない。第三者は「50万色以上」と記載しており、ここは比較可能な形での公表を待ちたい。

価格とスケジュール

Kickstarter の Super Early Bird 価格と参考MSRPは次のとおり(Make: の報道)。

構成Kickstarter価格参考MSRP
G1 Starter Pack1,999ドル2,699ドル
G1X Starter Pack3,299ドル4,999ドル
G1X Full-3D Pack3,599ドル5,499ドル
G1X Deluxe Bundle4,999ドル7,999ドル
G1X Full-3D Twin Pack6,999ドル10,998ドル

出荷目標は2026年第4四半期で、一部地域は物流上の理由で対象外とされている。なお G1 と G1X では3Dテクスチャの扱いが異なり、G1 は最大5mmまで、フル対応は G1X 側になる。

未公開のまま残っている論点

集まった金額の大きさに比べて、実際に使い続けるためのコストがほとんど分からない。実機を検証したレビューは、この点を具体的に指摘している。

  • バッチ造形時間が未公開。現在流通している「1個あたり何分」という数字は、プレートの4%しか使わない13.25時間のデモ造形1件から逆算されたものだという。プレートを埋めて量産したときの実時間が分からなければ、制作の採算は計算できない
  • プリントヘッドの交換費用が未公開。「2,100時間」という寿命の数字は、交換用 Epson i3200 の価格が分からなければ判断材料にならない
  • 造形物は50℃付近で軟化する。機能部品としての強度も十分ではなく、用途は装飾・表現寄りに限られる
  • メンテナンス負荷。プリントヘッドは定期的な清掃サイクルを要し、長期間使わないと「ディープクリーン」が必要になる
  • クラウドファンディング固有のリスク。HeyGears は実績のあるメーカーではあるが、スケジュール遅延と初代ハードウェアの不具合という一般的なリスクは残る

これらは製品を否定する材料ではない。むしろ、色を含めて一発で出せる機械がこの価格帯に降りてくること自体は、個人のものづくりにとって歓迎すべき変化だ。ただ「塗装工程が消える」という言い方が成立するかどうかは、造形1個あたりのインク代・ヘッド償却・清掃時間を足した実勢コストが、手で塗る工数を下回るかで決まる。その計算に必要な数字が、まだ出ていない。

HuRoC としては、出荷が始まった段階で実機のランニングコストと色の実測を現場で検証したい1台だ。特に、フィギュアや模型を実際に売っている作り手にとって、「塗らない」選択がビジネスとして成立するのかを見たい。


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