研究と社会

保健室のMoflinは、生徒の来室をどう変えるか。立命館守山中高とカシオが7カ月の検証を始めた

カシオ計算機が2026年9月1日、AIペットロボット「Moflin」を立命館守山中学校・高等学校の保健室に追加導入し、生徒と教員の心理や来室行動への影響を2027年3月まで検証すると発表した。来室人数・滞在時間・再訪率と、1・3・7カ月時点の聞き取りで測る。

保健室に来る生徒は、体調が悪い生徒だけではない。教室に居づらい日にしばらく座っていく生徒もいる。そういう場所に、撫でると鳴いて身をよじる毛玉のようなロボットを置いたら、来る人の数や居る時間、交わす言葉は変わるのか。

カシオ計算機は2026年9月1日、AIペットロボット「Moflin(モフリン)」を立命館守山中学校・高等学校(滋賀県守山市)の保健室に追加導入し、生徒と教員の心理状態や来室行動への影響を検証するプロジェクトを始めると発表した。期間は2027年3月31日までの7カ月。学校法人立命館の附属校で、在籍は中学校490名、高等学校1,030名の計1,520名だ。

保健室の机に置かれたMoflin。奥に体温計立て(カシオ計算機)

4月から1匹。9月の「追加」が何匹かは、発表文に書かれていない

発表によれば、同校は「生徒自身が過ごしやすい場所を選択できる場所づくり」をコンセプトに、2026年4月からMoflinを1匹、保健室に置いてきた。今回のプロジェクトはその数を増やし、導入前後の変化を比べる。

同校の保健室の紹介ページを見ると、この言葉はMoflinのために作られたものではない。面談や昼食に使える「サポートルーム」、ひとりで過ごせる「ほっとルーム」、木目調の「カウンセリングルーム」を用意し、置くものは「ナニ?コレ」と生徒が興味を持つものを意識しているという。Moflinは、その選択肢の一つとして入ってきた。

一方で、公表資料から読み取れる範囲には限りがある。9月から何匹に増やすのか、Moflinはカシオの提供か学校の購入か、データを分析するのは誰か。カシオのリリースにも、同日公開のカシオの特集記事にも、この3点は書かれていない。

リリースには、同校の山村和恵教諭のコメントが載っている。「本校では『デジタル保健室』も導入していますが、大切にしているのは、デジタルへの置き換えではなく、生徒が自分に合った方法を選び、人との関わりにつながっていくことです」。Moflinについては、生徒が名前をつけたり会いに来たりしているとし、「会話や関係づくりの入口となる『バディ』」としての役割を検証したいと述べる。

測るのは来室人数・滞在時間・再訪率と、1・3・7カ月目の聞き取り

検証項目は4つある。Moflinによる生徒と教員の来室行動の変化、不安や緊張感の変化、保健室内のコミュニケーション量の変化、そして職員の心理的・業務的負荷への影響だ。

調べ方も明記されている。来室人数、滞在時間、再訪率といった定量データを記録し、導入から1カ月・3カ月・7カ月の時点でアンケートとインタビューを行う。

気になるのは4つ目の項目だ。検証の対象は生徒だけでなく、保健室を回す大人の負荷も含む。来室が増えれば対応の手間も増えうる。癒やしの効果と業務負荷を同じ枠で測る設計は、ロボットを「置いて終わり」にしないための問いとして読める。

ただし、比較対照となる別の部屋や学校を置くのかは発表からは分からない。保健室の来室は学期や行事、感染症の流行でも揺れる。前後比較の結果をどう解釈するかは、2027年春以降に何が公表されるかにかかっている。

カシオ側でこの事業を担う新規事業部長の古川亮一氏は、リリースで「生徒や教職員の皆さまが“Moflin”と一緒に過ごすことによる心の安定や、周囲との良好な関係の構築に寄与することを期待しています」とコメントしている。

無菌病床、認知症の拠点、そして学校。カシオが順に広げる現場

Moflinは2024年10月10日に発表され、11月7日に発売された。手のひらサイズで質量は約260g、希望小売価格は税込59,400円。独自の感情AIで400万通り以上の個性が育つとうたう。2026年9月4日に発売した新色「さくら色」は税込64,900円で、同じリリースは累計販売を2万匹以上としている。

家庭向けに売ってきた製品を、カシオは2026年に入って医療や福祉の現場へ持ち込み始めた。1月には福岡市認知症フレンドリーセンターで展示を始め、認知症の人への効果の検証を進めている。2月9日には東京慈恵会医科大学附属病院の小児病棟に提供した。対象は、感染対策で人や物との接触が制限される無菌病床の子どもたちだ。慈恵医大の発表によれば提供は2台で、子どもと保護者の心理的な変化を聞き取り調査で見ていく。

小児科の大石公彦教授はカシオのリリースで「“Moflin”が特別なことをする必要はありません。ただ、こどもたちのそばにいて、入院生活の中に少しだけ安心できる時間や、気持ちが緩む瞬間が生まれれば、それで十分だと思っています」と語っている。

病院は聞き取りが中心で、学校では定量データの記録が加わる。3つの現場を並べると、効果を数字で示す方向へ寄せているように見える。

パロはランダム化比較試験、LOVOTは小学校で6体。先行するロボットの測り方

効果検証では、産業技術総合研究所が開発したアザラシ型ロボット「パロ」が先を行く。東京都立大学などの国際共同研究チームは、認知症グループホーム6カ所の85名を対象に、パロとの自発的なふれあいを週3回行う群と週1回行う群に施設単位で分け、1カ月のクラスター・ランダム化比較試験を行った。週3回の群では介護者の介護負担感が統計的に有意に下がった(LS平均変化量 -3.29、p=0.030)。論文は2026年2月17日付で「Alzheimer’s & Dementia」に載っている。同じ発表は、介護事業者が国の「介護テクノロジー導入支援事業」の補助(最大3/4、上限30万円)でパロを導入できるとも記す。

学校では、GROOVE Xの「LOVOT」に先例がある。同社は2020年6月25日から10月上旬まで、東京都北区立王子第二小学校(発表時点の全校児童242名)に6体を置いた。コロナ禍での心のケアが目的の一つで、7月と9月にアンケートを行った。同社の公式ブログは東北大学の瀧靖之教授の指導で導入前後を調べたとし、ポジティブな変化を確認したと書くが、具体的な数値は載せていない。

パロは介護者の負担を主な指標に、無作為に分けた群で比べた。LOVOTは児童の意識の変化をアンケートで見た。立命館守山中高のMoflinは、来室行動の記録と、生徒・教員・職員への聞き取りを組み合わせる。触れて反応する小さなロボットは、噛むだけの「甘噛みハムハム」のように家庭で広がる製品も増えた。家庭で売れた実績と、公共の場で効果を説明できることは、別々に確かめる必要がある。

保健室は、生徒が理由を言わずに来てもよい数少ない場所だ。そこで「来室が増えた」という数字が出たとき、それを安心の増加と読むか、別の何かの表れと読むか。1匹から始まった保健室の7カ月は、その読み方を学校と企業がどう決めるかの試金石にもなる。


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