ものづくり

指を噛むだけのロボットが3年で7万匹。ユカイ工学「甘噛みハムハム」の機構特許が登録された

ユカイ工学の「甘噛みハムハム」は、発売3周年の2025年7月にシリーズ累計7万匹を超えた。2020年の社内メイカソンで最初は反応が薄かった企画で、クラウドファンディングは目標50万円に対し1,148万円。機構の特許は2026年4月28日に登録された。

ユカイ工学(東京都新宿区、代表・青木俊介)の「甘噛みハムハム」は、ぬいぐるみの口に指を入れると噛み返してくる、それだけのロボットだ。同社は発売3周年にあたる2025年7月に、シリーズ累計販売数が7万匹を超えたと公表している。企画は2020年の社内イベントから出たもので、発案者本人が「最初はあまりウケがよくなくて苦悩の期間がありました」と振り返るところから始まっている。

甘噛みハムハム(ユカイ工学 公式オンラインストア)

上あごのセンサーと、モーター1個で回る下あご

公式ストアの製品情報によれば、電源は単3形乾電池3本(別売)、重量は約380g、1日8分程度の使用で電池は約3か月もつ。鳴き声はなく、聞こえるのはモーター音だけだ。機構部は同社が「ハムリングシステム」と呼ぶPOM製のユニットで、取り出せない。

製品ページには長く「特許出願中」と書かれていた。その出願は2026年4月28日に登録されている(特許第7852915号、出願日2022年3月22日)。発明者は冨永翼、小畑承経、高橋奈都美、青木俊介の4名。

明細書の構成は素直だ。ぬいぐるみの口内に上あご部と下あご部を収め、モーター、ベルトとプーリー、減速ギヤからなる駆動部で下あご部を上あごへ回す。指の検知は上あご側の静電容量式タッチセンサーで行う。ボタンを押させたり頭を撫でさせたりする先行例に対し、口に指を入れる行為そのものをスイッチにした点を差分として説明している。

しぐさは40近く、一つずつ名前が付いている

作り込まれているのは機構より噛み方の方だ。公式サイトはプログラム名を「ハムゴリズム」とし、「味わいハム」「溺れハム」などのしぐさを挙げている。

同社公式noteの開発チーム座談会で、ハードエンジニアの小畑承経は「ハムハムする仕組みは1週間くらいで作って、外見はモデリングで試作したんですが、外見を作るのは難しいねという結論になりました」と述べている。そこから既製品のぬいぐるみに機構を入れる形に切り替え、りぶはあとの「ねむねむアニマルズ」を採用した。しぐさは小畑が「怒り、悲しみ、あくび、楽しみ」など6つを作り、もう一人のエンジニアが20〜30を追加。座談会では「当時のアイディアだけでも40くらいありましたね」と語られている。

目標50万円に対して1,148万円

2022年3月8日から4月21日までのクラウドファンディングは、目標50万円に対して11,485,575円、支援者2,267人、達成率2,297%で終了した。同社はこれを自社史上最高とし、4月25日から税込4,400円で予約販売を始め、同年7月に発売。初回出荷は2万匹だった。海外向けには2022年10月18日からIndiegogoで30日間のキャンペーンを走らせている。累計は2023年1月に3万匹、2025年7月に7万匹。それ以降の数字は公表されていない。現在の公式ストア価格は税込5,830円、ラインナップは4種になっている。

メイカソンとQoobo、「役に立たない」を通す前例

同社公式noteの説明では、メイカソンは2016年に始まった全社員参加のイベントで、5〜6名のチームが2〜3か月かけて試作とプレゼンまでを行う。冨永は座談会で「2回目のアイディア会でも出して、強引に進めました」「製品化するためには発案者が自ら周囲を巻き込んで動かなきゃいけない」と述べている。冨永はタカラトミーで営業と新規企画を経て2016年にユカイ工学へ移った人物だ。

この仕組みが機能したのは前例があったからでもある。同じくメイカソン発の「Qoobo」は撫でるとしっぽが動くだけのクッション型ロボットで、2018年11月の発売から約半年で累計1万匹(税別12,000円)、2021年9月にシリーズ累計3万匹に達している。用途を説明できない製品が事業として成り立つことを、社内が数字で知っていた。

既製品のぬいぐるみに機構を載せる、という作り方

甘噛みハムハムの構成要素は、モーター1個、ベルトとプーリー、減速ギヤ、トルクリミッタ、静電容量センサー、乾電池3本だ。外装は既製品を調達し、一次試作は1週間で立ち上がった。設計・試作の資源が限られる作り手が取り得る構成だ。自社の中核部品を消費者向けの小物に載せたNSKマイクロプレシジョンの投げコマや、写真1枚を入力に据えて累計1万体まで積んだDMMのペットフィギュアと同じく、勝負どころは機構の複雑さではなく体験の入口の置き方にある。

大企業で通らない案が小さな会社で成立する、という一方向の話でもない。ユカイ工学は2025年12月23日、タカラトミーとの協働による寝かしつけサポートデバイス「necoron」のプロトタイプをCES 2026で初公開すると発表した。赤ちゃんの足に装着し、LEDの色で布団に置くタイミングを示すもので、タカラトミー側が2026年ごろの発売を目指すとしている。情緒に効くだけの小さなロボットは、供給側の役割分担がつくカテゴリーになりつつある。


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