IPAをやめられるか。光造形3Dプリンタ向けの水溶性洗浄剤「NFixa Protect」、紫外線吸収剤で析出を抑える
日本メカチカルが、UV硬化型3Dプリンタの未硬化レジン専用の水溶性洗浄剤「3DPR NFixa Protect」を発売した。引火点なしで臭気も抑え、天然由来のUV吸収剤で洗浄液中の未硬化樹脂が硬化して析出するのを防ぐという。ただし洗浄性能の定量データは公開されておらず、根拠は試験ユーザーの証言のみ。
日本メカケミカル株式会社(愛知県豊川市)が、UV硬化型3Dプリンタの未硬化レジン専用の水溶性洗浄剤「3DPR NFixa Protect(エヌフィクサ プロテクト)」を発売した。2026年8月31日に発表している。

光造形(UV硬化型)の3Dプリンタは、液体樹脂に紫外線を当てて1層ずつ固める方式なので、造形後に細かな隙間や複雑形状に残った未硬化樹脂を洗い落とす工程が必ず入る。この洗浄に長く使われてきたのが IPA(イソプロピルアルコール)で、そこには引火性と臭気という扱いにくさがついて回る。
2つの課題に対する構成
この製品が対応するとしている課題は2つある。
1つ目は安全性。水ベースで引火点なしの非危険物であり、IPA と比べて臭気も低いとされる。仕様は次のとおり。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 外観 | 赤褐色透明液体 |
| 比重(15℃) | 1.00(原液) |
| 動粘度(15℃) | 9.2 mm²/s |
| pH(20℃) | 7.9 |
| 引火点 | なし |
| 容量 | 1L / 5L / 20L |
2つ目が、この製品の固有部分にあたる。同社の説明によれば、UV硬化型樹脂は紫外線に反応するため、蛍光灯や外光に含まれる紫外線の影響で、洗浄液中に残った未硬化樹脂が硬化して析出物になることがある。この析出物が造形物に再付着すると表面品質に影響する。一般的な作業環境で紫外線を完全に遮断した洗浄環境を整えるのは容易ではない。
そこで天然由来のUV吸収剤を配合し、洗浄液内での未硬化樹脂への紫外線の影響を抑えて析出物の発生を減らす、という構成になっている。ただし公式製品ページには「紫外線防止メカニズム」の図があるだけで、吸収波長域や配合率といった技術的な詳細は書かれていない。
根拠が証言だけである点
判断材料として重要なのは、洗浄性能の定量データが公開されていないことだ。洗浄率、残渣量、洗浄時間といった数字は一切示されておらず、第三者機関による試験データもない。
効果の裏付けとして掲載されているのは「試験ユーザーの声」で、内容は次のようなものだ。
- 洗浄液の洗浄力低下の具合は IPA 同等に感じる
- 洗浄力は IPA に劣るものの十分に使用に足りる性能である
- 変形が見られないことから IPA よりも使いやすい
- 特殊な洗浄が要るシリコーン系レジンも洗える点がとてもよい
- 臭いが少ない/再利用ができる/IPA よりもオフィスに置きやすい
注目したいのは、メーカー自身が「洗浄力は IPA に劣る」という証言をそのまま載せていることだ。水溶性洗浄液は安全性と扱いやすさで優位だが IPA と同等の洗浄性能を得ることが難しい、という課題は同社も背景説明の中で認めている。過大な主張をしていない点は、判断する側にとってはむしろ扱いやすい。
個人の工房で効くところ
光造形機を自宅や小さな工房に置いている人にとって、IPA の扱いは地味に重い。消防法上の危険物にあたるため保管量に気を使い、換気を確保し、火気を遠ざける必要がある。集合住宅ではそもそも置きにくい。
引火点がないという一点だけでも、置ける場所が変わる。「IPA よりもオフィスに置きやすい」という証言は、性能の話ではなく設置条件の話をしている。洗浄力が多少落ちても、置ける場所が増えるほうが実務では効くという判断はありうる。
一方で、価格はプレスリリースにも公式製品ページにも記載がない(一般ユーザー向けには Amazon で1本から販売中とされる)。ランニングコストが IPA と比べてどうかは、洗浄力の差と合わせて実際に使ってみないと分からない部分になる。適用できるレジンの網羅リストや廃棄方法も製品ページには載っていない。
洗浄工程は、光造形を続けるうえで最も面倒で、最も語られない部分でもある。そこに選択肢が増えること自体の価値は小さくない。