産業と実装

日本精工とアトム、国産ヒューマノイドでMOU。NSKの工場をフィジカルAIのデータ収集現場に使う

軸受で世界3位の日本精工(NSK)と、2025年11月設立のヒューマノイド企業アトムが、国産ヒューマノイドAIロボットの開発に向けた基本合意書を締結した。NSK製アクチュエータをアトムの実機に載せて共同検証し、あわせてNSKの製造現場でフィジカルAIの学習データを収集する。

日本精工(NSK)と株式会社アトムが、国産ヒューマノイドAIロボットの開発・実装に向けた包括的なパートナーシップに関する基本合意書(MOU)を2026年8月20日に締結した。

NSKとアトムの戦略的パートナーシップ(株式会社アトム)

組み合わせとしては、部品側と知能側が手を組む形になる。NSK は1916年に国産初の軸受を生産した企業で、現在は約30か国に拠点を持ち、軸受の分野で世界第3位に位置する。一方のアトムは2025年11月設立のスタートアップで、「日本のGDPを1%引き上げること」を目標に掲げている。

合意の中身は2点

リリースが挙げる協力内容は2つに絞られている。

1つはアクチュエータの共同検証。NSK が開発するヒューマノイドロボット向けアクチュエータを、アトムのヒューマノイドに搭載して検証する。アトムの実機評価から得られる知見を NSK の製品開発に戻すことで、「国産アクチュエータの性能向上と、量産化に向けた課題解決を加速させます」としている。

もう1つは、NSK の製造現場を使ったフィジカルAIのデータ収集。アトムのヒューマノイドを NSK の生産環境に入れ、実際の製造工程に由来するデータを集める。「フィジカルAI基盤モデルの性能向上と、製造工程で求められる高度な作業を実行可能なロボットの開発を目指します」と説明されている。

NSK 取締役 代表執行役社長・CEO の市井明俊氏は「ヒューマノイドロボットは、日本の製造業が長年培ってきた精密技術の真価を発揮する新たな領域です」「NSKは、ベアリングやボールねじで培ってきたトライボロジー技術を礎に、ロボットのしなやかな動きを支えるアクチュエータの開発に取り組んでまいりました」と述べている。

アトム代表取締役社長の青木俊介氏は「ヒューマノイドロボットの実装に向けて、フィジカルAIとハードウェアの統合は必須です。しかし、両者の質の高い融合は極めて難しく、世界的に見ても成功事例は限定的です」としている。

アクチュエータという勝負どころ

ヒューマノイドの量産で効いてくるのは、実のところ関節だ。人型の全身には数十の自由度があり、その一つひとつに減速機とモーターと軸受が入る。ここのコスト・重量・寿命・バックドライバビリティ(外力で押し返せるか)が、機体の価格と安全性を決める。

中国勢が量産機の価格を下げてこられた背景には、この関節部品を含むサプライチェーンの厚みがある。XPeng がロボット事業の分社で9億ドルを調達したように、資本の規模でも差がついている。

その文脈で、軸受とボールねじで世界3位の企業が自前でアクチュエータを作り、国内のスタートアップの実機で検証する、という座組みには意味がある。部品メーカーが単体で性能を追うのではなく、実機に載せて評価を戻すというループを作る点が、この MOU の実質だ。

公表されていないこと

一方で、この段階で分かっていないことは多い。

  • 資本関係・契約金額: MOU(基本合意書)であり、出資への言及はない
  • アクチュエータの型番・性能値: トルク、減速比、寸法とも非公表
  • 検証の開始時期・期間・マイルストーン: 記載なし
  • アトムのロボット機体名・型番: リリース中に固有名はなく「双腕二足のロボット機体」とのみ
  • データ収集を行う NSK の具体的な工場名: 非公表

設立から1年に満たない企業と、創業110年の部品メーカーが組むという構図自体は目を引くが、現時点で公開されているのは合意の存在と方向性までだ。実機に載ったアクチュエータがどんな数字を出すかは、これから検証される段階にある。

日本の製造業にとって、この座組みが持つ意味は「国産ヒューマノイドができるかどうか」より、自社の工場が学習データの供給源になりうるという点にあるかもしれない。製造現場の作業データは、外に出しにくい代わりに他社が持っていない。そこをどう扱うかは、今後この種の提携が増えたときに共通の論点になる。


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