表情豊かなロボットほど、ミスの代償が大きい。脳とホルモンを同時に測った研究がScience Roboticsに
ドレクセル大などの研究チームが、人がロボットのミスをどう処理するかを脳活動・ホルモン・行動の3層で同時に測った。身ぶりや相づちのある「表情豊かな」ロボットが誤ると、その後の助言に従う割合が半分以下に落ちた。オキシトシンは信頼が下がる場面で逆に上昇していた。
ドレクセル大学の Hasan Ayaz 氏らの研究チームが、人がロボットのミスをどう受け止めるかを、脳活動・ホルモン・自己申告・実際の行動の4層で同時に測った研究を発表した。論文は Science Robotics 掲載の「Multilevel dynamics of the brain, hormones, mind, and behavior in social human-robot interaction」(DOI: 10.1126/scirobotics.aec1762)。

結果を一言でいえば、愛想のよいロボットほど、失敗したときに失うものが大きい。
実験の設計
ドレクセル大の発表によると、参加者は健康な成人男性50名。ロボットは商用ヒューマノイドの Pepper を使い、二つの条件に分けた。
- 表情あり条件: 視線を合わせ、身ぶりを交え、うなずきや相づちを打つ
- 表情なし条件: 同じ内容を、動かずに話す
各セッションではまず誤りのないやり取りを行い、その後にロボットが会話上のミスをする回を設けた。ミスの中身は、参加者の発話をさえぎる、話題と無関係な発言をする、論理の通らない助言をする、といった協調的なやり取りの規範を破る形で実装されている。
計測に使われたのは機能的近赤外分光法(fNIRS)で、額に装着したセンサーで前頭前野の血中酸素量を追う方式だ。参加者が動いたり話したりしながらでも測れるため、対面のやり取りをそのまま記録できる。研究チームはこれに加えて唾液中のオキシトシン濃度、自己申告による信頼度、そして「ロボットの助言にどれだけ従ったか」という行動指標を並べた。
三つの結果
第一に、ミスは表情の有無にかかわらず信頼を下げた。 研究チームはこれを踏まえ、信頼の土台はあくまで動作の確実性にあると位置づけている。共著者の Ewart J. de Visser 氏は「信頼性が先に来なければならない」と述べている。
第二に、表情のあるロボットの方が代償が大きかった。 表情あり条件でミスが起きた場合、その後に参加者がロボットの助言に従う割合は半分以下に落ちた。共著者の Frank Krueger 氏は「愛想のよいロボットがしくじると、素っ気ないロボットより高い代償を払う」と表現している。
脳側でも違いが出ている。表情のあるロボットのミスでは、背外側前頭前野と内側前頭前野の活動が上がり、両者がより密接に連動した。これらは他者の意図を推測したり社会的な判断を下したりする際に働く領域だ。研究チームの説明では、動かないロボットのミスは「機械の故障」として処理され、動くロボットの同じミスは「社会的な違反」として処理される。
第三に、オキシトシンは信頼が下がる場面で上昇した。 オキシトシンは愛着や社会的結びつきと結びつけて語られることが多いホルモンだが、今回は信頼の低下と同時に増えている。研究チームは、人とロボットのやり取りにおいては、愛着の指標ではなく**信用ならない社会的振る舞いへの注意を高める「警戒の信号」**として働いた可能性を挙げている。
Ayaz 氏は「信頼は単一の測定で捉えられるものではないので、複数を同時に測った」と述べている。自己申告の信頼度と、実際に助言に従うかどうかの行動、そして生理指標が必ずしも一致しないことは、この分野で繰り返し指摘されてきた点だ。
設計への含意と、この研究が答えていないこと
サービスロボットやヒューマノイドの設計では、親しみやすさを高めるために表情や身ぶりを足す方向が一般的だ。今回の結果は、その選択が失敗時のリスクを同時に引き上げることを示している。表情を足すなら、その分だけ動作の確実性に投資が要る、という順序になる。
一方で、この研究が答えていない部分もはっきりしている。参加者は健康な成人男性50名のみで、年齢・性別・文化圏の広がりは検証されていない。ロボットに対する反応は文化差が大きいことが知られている領域で、日本のように生活空間にロボットのキャラクター表現が浸透している文脈にそのまま当てはまるとは限らない。また、実験は一度きりのやり取りで、長期的に使い続けたときに信頼が回復するのか、それとも下がったままなのかは扱われていない。
介護施設や店舗のように、同じ人が同じロボットと何か月も付き合う現場では、この「回復するかどうか」がむしろ本題になる。HuRoC としては、表情を持つロボットを長期導入している現場で、ミスのあとに何が起きたかを追いたい。