柵の外へ出るDigit 5。Agilityが実績に挙げる安全評価は、柵で囲った作業セルで受けたもの
Agility Roboticsが2026年9月15日、安全柵なしで人の近くで働けるよう設計した新型ヒューマノイド「Digit 5」を発表した。発表文が土台に挙げる「OSHA基準の第三者現場評価」は、同社の説明ではDigit 4を柵で囲った作業セルで受けたもの。人型ロボット向けの国際安全規格ISO 25785-1はまだ委員会原案の段階にある。
工場や倉庫で人と同じ通路を歩き、同じ棚から箱を取る。ヒューマノイドの売り文句として何度も語られてきた光景だ。ただ、北米の複数の顧客現場で商用稼働しているAgilityのDigit 4も、実際の顧客の現場では柵で区切った作業セルの中に置かれている。
Agility Robotics が2026年9月15日に発表した第5世代のヒューマノイド「Digit 5」は、その柵を外すことを最大の売りにした。発表文は、従来の自動化で必要だった物理的な安全柵なしに人の近くで働けるよう設計した、同社で初めての「協調安全(cooperatively safe)」の機体だと説明する。では、その安全は何によって確かめられているのか。発表文と、同社がこれまでに公開してきた資料を突き合わせた。

Digit 5で変わったこと
ハードウェアの変更は、3年間Digit 4を使ってきた顧客の要望に沿ったものだという。
| 項目 | Digit 5 | Digit 4 との比較 |
|---|---|---|
| 可搬重量(繰り返し) | 最大50lb(22.7kg) | 40%増 |
| 稼働時間/充電時間 | 90分/9分 | 稼働と充電の比は2:1から10:1へ |
| 1日の稼働 | 24時間のうち20時間超 | — |
| 到達高さ | 最大7.2ft(2.2m) | Digit 4は5.5ft |
| 身長/重量 | 5ft 11in(1.81m)/284lb(129kg) | — |
| エンドエフェクタ | ISO規格の取付フランジで交換可能なグリッパー | — |
脚は反復的な持ち上げに耐えるよう設計し直し、自社開発のサイクロイド減速機を使うアクチュエーターで駆動する。可搬重量の50lbは、OSHAの規制を受ける施設で1人が持ち上げる作業を一通りカバーできる重さだと同社は説明する。Digit 4がほぼ通い箱(トート)の搬送に絞っていたのに対し、Digit 5は入荷時のパレット降ろしから出荷時のパレット積みまで、施設の工程を通しで担うことを目指す。
Digit 4は北米の複数の顧客拠点で累計6万5,000時間超稼働しており、発表文はGXO、Schaeffler、Amazon、Toyota Motor Manufacturing Canadaの名前を挙げる。GXOのアトランタ近郊の拠点では、作業中の精度約98%で累計10万個の通い箱を扱ったという。
受注についてPeggy Johnson CEOは「複数年で3億ドルを超える」と述べた。この受注が1社との1,000台・3年間のRaaS契約で、契約上のマイルストーンや製品の機能・仕様を満たすことが条件になっている点は、SECに提出された書類を読んだ既報で扱った。Digit 5の部品原価の計画は別の記事にまとめている。
柵の代わりに置いた3つの仕組み
発表文が「協調安全」のために挙げる仕組みは3つある。
- 人の検知: 独自のAIアルゴリズムと複数のセンサー技術で周囲の人を常に監視し、自律的に避ける、止まる、座った姿勢をとる、のいずれかで対応する
- 安全キュー: 目に見える合図と音で動作の意図を示し、近くの人に知らせる
- 安全な動作制御: 独立した安全コントローラーが、危険な距離に人がいることを検知した際の対応を監督し、安全動作を即座に起動する
あわせて、NVIDIAの安全基盤「Halos for Robotics」の最初のローンチパートナーとなり、NVIDIA IGX ThorとHalos Coreを組み合わせるとした。
一方で、何メートル先の人を検知するのか、止まるまでに何秒かかり何cm進むのか、安全機能がどの性能レベル(ISO 13849でいうPL)を満たすのかといった数値は、発表文にも製品ページにもない。製品ページは、人検知ソフトウェアと機能安全の振る舞いによって、実際の現場で外部の柵を「不要にするよう設計されている」と書く。発表文の表現も、柵への依存を「減らすよう設計された」安全アーキテクチャだ。どちらも設計の狙いを述べたもので、何らかの規格への適合や第三者の認証を示した記述ではない。製品ページの注記も、Digit 5は開発中で「一部の安全機能はまだ開発中」だと断っている。製品シートはフォーム登録制で、今回は確認していない。
安全キューの説明には、もう1つ読みどころがある。合図で意図を示すのは、近くにいる人が「安全な運用に参加できるようにする」ためだと発表文は書く。柵がなくなった現場では、ロボットの合図を読み取ることが、隣で働く人の仕事の一部になる。
土台に挙がる「OSHA基準の現場評価」は、柵の中で受けたもの
発表文は、Digit 5の安全アーキテクチャが次の実績の上に立つと書く。「米労働安全衛生局(OSHA)が所管する産業安全基準について、顧客の生産ラインで独立した現場評価に合格した初のヒューマノイド」という実績だ。
Agilityは2025年11月24日のブログで、Eコマース顧客の物流拠点で、OSHAが認定する「国家認定試験機関(NRTL)」の現場評価に合格したと説明している。評価では機械的な危険、感電、人との接触の危険を現地で確認したという。評価したNRTLの名前と、どの規格のどの条項に照らしたかは書かれていない。ブログ自身も、NRTLの現場評価は「サイト固有」だと断っている。OSHAの説明では、NRTL制度は、製品がOSHAの電気関係の基準の要件を満たすかを認証する民間機関を認定する仕組みだ。
評価を受けたときの条件は、Agility自身が公開資料に書いている。CTOのPras Velagapudi氏は8月4日のブログで、NRTLの現場評価に合格したのは「Digitを収めた作業セル(Workcells containing Digit)」だと書いた。同社のFAQは、Digitは標準的な産業安全の慣行に従うため、立ち入りを制限した専用の作業セルの中で動くと説明する。セルは物理的な外周の囲いと安全インターロックで、ロボットの動作空間を周囲の人の往来から構造的に切り離す。同じブログでVelagapudi氏は、第4世代のDigitは試験導入の間もRaaSでの本番運用の間も仕切られた作業セルにとどまっており、柵なしで働ける最初の協調安全の機体を2027年に投入する予定だと書いた。
つまり「初の合格」は、柵で囲った作業セルという条件のもとでの実績で、同社もそれを隠してはいない。柵を外したDigit 5の運用が第三者の評価を受けたという記載は、今回確認した公開資料には見当たらない。Digit 5の一般提供は2027年末の見込みで、評価を受ける段階にまだ来ていないともいえる。
なお、FAQは現場評価の目的を、雇用主に認識された危険のない職場を求める「一般義務条項(29 CFR § 1910.212)」への適合確認と書いている。一般義務条項は通常、労働安全衛生法(OSH Act)第5条(a)(1)を指す呼び名で、規則集の1910.212は別の規定で、表題は「すべての機械に対する一般要件」、冒頭は機械の防護(ガード)を求める条文だ。防護の方法の例には、柵のような障壁ガードと並んで「電子式の安全装置」も挙がっている。柵なしのDigit 5で問われるのは、人の検知と独立した安全コントローラーの組み合わせが、この防護の役割を柵と同じ確かさで果たせると第三者が確かめられるかどうかだ。

人型を測る国際規格は、まだ原案の段階
Agilityが適合をうたう規格の一覧は、FAQにある。移動ロボットのANSI/RIA R15.08、産業用ロボットのISO 10218、機械の制御システムと危険低減のISO 13849とISO 12100、ANSI B11シリーズ、電気のNFPA 79とNFPA 70Eだ。ただし、それぞれにDigitのどの構成が、誰の評価で適合したのかは示されていない。
産業用ロボットのISO 10218は2025年に改訂されたが、人型のように、電源を失うと倒れうるロボットに固有の危険を正面から扱う規格として作られているのが、ISO 25785-1だ。対象は、脚や車輪などで移動し、能動的な制御で姿勢を保つ産業用の移動ロボットで、ISOの技術委員会TC 299が策定している。ISOの規格開発データを載せるセルビア標準化機関のページによれば、現在は委員会原案(CD)の段階で、コメント期間は2026年7月8日に締め切られた。
発表文は、Agilityが米国・カナダ向けの技術報告書ANSI/A3 TR R15.108(策定中)とISO 25785-1に「プロジェクトリーダー、積極的な貢献者」として関わっていると書く。規格を作る側にいることと、完成した規格への適合を確かめることは別の段階にある。
同社がSPAC上場のためにSECへ出したForm S-4のリスク要因は、この点をはっきり書いている。人と作業空間を共有するヒューマノイドには、R15.08のほか、策定中のR15.108やISO 25785-1など進化途中の安全規格が関わる。規格の変更や新しい解釈は、コンプライアンス費用の増加、製品の改修、認証の遅れ、顧客の施設での配備の制限につながりうる、という記載だ。同じ書類はDigit 5の初回リリースを「2026年終盤(late 2026)」と見込む。発表文が示す顧客向けの早期アクセスは2027年前半、一般提供は2027年末だ。
北米以外では初めてEUと英国で展開する計画で、CEマークなどの取得を見込む。EUでは、機械指令に代わる新しい機械規則(EU)2023/1230が2027年1月20日に適用を始める。一般提供の見込み時期は、その後にくる。
日本の現場に置くと
日本で産業用ロボットを動かす事業者は、労働安全衛生規則第150条の4により、ロボットに接触して危険が生じるおそれがあるときは「さく又は囲い」を設けるなどの措置を講じなければならない。2013年12月の厚生労働省の通達は、ISO 10218-1:2011と10218-2:2011に沿って設計・製造・設置され、技術ファイルと適合宣言書が作られたロボットを使用条件どおりに使う場合なども、この措置に当たると整理した。同じ通達は、事業者のリスクアセスメントで接触の危険のおそれがなくなったと評価できる場合も、柵などの措置が必要な「おそれのあるとき」に当たらないとした。いわゆる協働ロボットが柵なしで使えるようになった根拠だ。駆動用原動機の定格出力が80W以下の機械は、もともと規制の対象外とされている。
通達が名指しするのはISO 10218の2011年版だ。歩行して姿勢を保つロボットに固有の危険は、いまISO 25785-1が扱おうとしている領域にあたる。ISO 25785-1が発行され、国内の制度がそれをどう扱うかが決まるまで、日本の工場で「柵のないヒューマノイド」を置く判断は、事業者自身のリスクアセスメントに多くを委ねることになる。
Digit 5が柵の外へ出るのは2027年だ。そのときに問われるのは、ロボットの検知と停止の性能だけではない。発表文が「参加」と呼んだ、合図を読み取る隣の人の側の慣れは、数値の仕様にはなりにくい。
出典
- Agility Unveils Digit 5 Humanoid Robot Built for Cooperatively Safe Work at Scale(Agility Robotics) — 2026-09-15
- Digit 5 製品ページ(Agility Robotics)
- Introducing Digit 5(Agility Robotics 公式 YouTube)
- Beyond the Hype: Digit passes OSHA-recognized safety field inspection(Agility Robotics) — 2025-11-24
- Agility’s Humanoid Deployment Process(Agility Robotics, Pras Velagapudi) — 2026-08-04
- FAQs(Agility Robotics)
- Churchill Capital Corp XI Form S-4(SEC) — 2026-09-04
- ISO/CD 25785-1 Robotics — Safety requirements for dynamically stable industrial mobile robots — Part 1: Robots(ISO)
- ISO/CD 25785-1 プロジェクト情報(Institute for Standardization of Serbia)
- ISO 10218-1:2025 Robotics — Safety requirements — Part 1: Industrial robots(ISO)
- 29 CFR 1910.212 General requirements for all machines(eCFR)
- OSHA’s Nationally Recognized Testing Laboratory (NRTL) Program(OSHA)
- Machinery(欧州委員会)
- 産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4の施行通達の一部改正について(厚生労働省, 基発1224第2号) — 2013-12-24