Agility Robotics、SPACで評価額25億ドル。売上178万ドルの63%は出資者への販売だった
ヒューマノイド「Digit」のAgility Roboticsが Churchill Capital Corp XI との SPAC 合併で上場する。2026年9月4日にSECへ提出されたS-4によれば、2025年の売上は178万ドル、営業損失は1億4,018万ドル。監査を担当したGrant Thorntonは継続企業の前提に疑義を付している。
ヒューマノイドロボット「Digit」を手がける Agility Robotics が、SPAC(特別買収目的会社)Churchill Capital Corp XI(NASDAQ: CCXI)との合併で米国に上場する。2026年6月24日の共同プレスリリースによれば、プレマネー株式価値は25億ドル、調達見込みは総額6.2億ドル超。9月4日にCCXIが提出したForm S-4で、これまで非公開だった数字が出た。

売上178万ドル、営業損失1億4,018万ドル
| 項目 | 2025年 | 2024年 |
|---|---|---|
| 売上(第三者) | 65.0万ドル | 27.6万ドル |
| 売上(関連当事者) | 113.2万ドル | 3.4万ドル |
| 売上合計 | 178.2万ドル | 31.0万ドル |
| 売上原価 | 447.3万ドル | 46.3万ドル |
| 研究開発費 | 9,164.4万ドル | 5,336.8万ドル |
| 営業損失 | −1億4,017.6万ドル | −6,972.1万ドル |
売上は前年比474%増だが、金額は178万ドル。しかもその63%は投資家である関連当事者への販売だ。注記によれば、ある投資家がロボット5台を総額105万ドル(1台21万ドル)で購入している。売上原価は売上の2.5倍で、粗利はマイナスのままだ。
営業キャッシュフローは2025年に9,983.9万ドルの流出。年末の現金は1億300万ドル、累積損失は3億1,310万ドル。そして監査法人 Grant Thornton LLP は、2024年・2025年の財務諸表に継続企業の前提に関する疑義の説明区分を付している。経営陣も、2025年のシリーズC(純額約1億6,239万ドル)と2026年7月のSAFE 1億ドルを挙げたうえで、SPAC合併の成立は自社の支配下にないため「これらの計画は疑義を解消しない」と結論している。
売上倍率では値段が付かなかった
25億ドルは2025年売上の約1,400倍にあたる。S-4に収録された CCXI の財務アドバイザー Ocean Tomo のフェアネス・オピニオンは、その値付けの手順を明かしている。同社は上場ヒューマノイド関連企業の予想売上倍率をあてはめる手法を検討したが、「Agility には倍率を適用できるだけの現在および近い将来の売上がない」として、この手法に一切の重みを置かなかったと明記する。代わりに使われたのは2040年度までのDCFと、2025年6月25日のシリーズC-3ポストマネー19.85億ドルに比較企業の株価上昇(1.8倍)や倍率拡大(1.6倍)を掛ける手法だった。
比較材料として、Figure は2025年9月のシリーズCでポストマネー390億ドル。一方科創板に上場した Unitree は2025年にヒューマノイドを5,511台出荷し、平均単価16.64万元(約23,000ドル)まで下げた実績を目論見書で開示している。
「3億ドルの受注」は1,000台×3年のRaaS
同社が繰り返し掲げる「3億ドル超の複数年受注」の中身も、S-4の脚注に書かれている。**Digit v5 を1,000台、3年契約のRaaS(Robot-as-a-Service)**である。示された単価は月額8,500ドルなので、1,000台×36カ月は約3億600万ドル。購入発注ではなく、3年分のサブスクリプション料の総額だ。
この受注は「契約マイルストーンと製品の機能・仕様の実現」が条件で、Digit v5 の初回リリースは2026年後半の予定。リスク要因は「3億ドルの導入を約束した顧客が1社ある」と書きながら、その社名を開示していない。既存顧客としては Schaeffler、GXO、Toyota Motor Manufacturing Canada、Amazon、Mercado Libre が挙がる。
実績側は具体的だ。Digit v4 は9つの顧客拠点で導入または導入確約済み、稼働は累計65,000時間超(2026年5月時点)。有償評価プログラム(参加料 約50万ドル)の契約は4社、商談中は30社超。BOM(部品原価)は Digit v4 で約12.5万ドルまで下がった。想定導入台数は2027年に約800台、2030年に約7,000台、2035年に最大約25,000台としている。
SPACという手段と、Berkshire Grey の前例
CCXI は Michael Klein 氏のSPACで、2025年12月18日のIPOで4億1,400万ドルを信託口座に入れた。合併発表はその6カ月後にあたる。PIPE(上場企業私募増資)はS-4によれば2億102万5,000ドル(2,010万2,500株を1株10.00ドル)。共同プレスリリースは「Foxconn がリード」と明記するが、S-4本文は「特定の投資ファンド」とするのみで社名を挙げない。CEO の Peggy Johnson 氏はSECにForm 425として提出されたBloombergのインタビュー記録で、Foxconn とは「戦略的な連携を探っている」段階だと述べ、評価額については「我々はバリュー・プライスト(value priced)だ」と語っている。
前例はある。倉庫ロボットの Berkshire Grey は2021年2月、SPAC合併を「プロフォーマ株式価値 最大27億ドル」で発表し、投資家説明会では17億ドルのパイプラインと年率100%近い増収見通しを掲げた。2年後の2023年3月、同社はSoftBank に1株1.40ドル・総額約3億7,500万ドルで買収され非公開化している。
共同創業者の Jonathan Hurst 氏は、同社がSECに Form 425 として提出した地元紙のインタビュー記事で「現実とつながっていないハイプとストーリーテリングが多すぎる。そのバブルを少し割りたいと本気で思っている」と述べている。従業員は約500人(うちオレゴン州に175人)。
導入現場が見るのは単価と稼働時間、そして人件費との比較で、それはNSKとアトムが進める国産ヒューマノイドのMOUでも、量産を掲げる XPeng でも、家庭用で2万ドルの 1X でも変わらない。ヒューマノイドの商用化を掲げる企業は増えたが、実売が法定開示に載った例は少ない。Unitree の目論見書と Agility の S-4 は、その数少ない照合可能な材料である。
出典
- Form S-4 Registration Statement, Churchill Capital Corp XI(U.S. Securities and Exchange Commission) — 2026-09-04
- Joint Press Release of Churchill Capital Corp XI and Agility Robotics, Inc.(SEC, Form 8-K Exhibit 99.1) — 2026-06-24
- Agility Robotics to Go Public Through Merger with Churchill Capital Corp XI(Agility Robotics) — 2026-06-24
- Form 425: Transcript of Peggy Johnson’s Bloomberg interview(SEC) — 2026-08-21
- Form 425: Article regarding the proposed business combination(SEC) — 2026-09-01
- Agility Robotics and Churchill Capital Corp XI Announce Confidential Submission of Draft Registration Statement on Form S-4(Agility Robotics) — 2026-07-14
- Figure Exceeds $1B in Series C Funding at $39B Post-Money Valuation(Figure) — 2025-09-16
- Berkshire Grey, a Leader in AI-Enabled Robotics and Automation Solutions, Announces Business Combination with Revolution Acceleration Acquisition Corp(SEC, Form 8-K Exhibit 99.1) — 2021-02-24
- Berkshire Grey Enters into Definitive Merger Agreement with SoftBank Group for Go-Private Transaction(SEC, Form 8-K Exhibit 99.1) — 2023-03-24