防衛装備庁の中央調達で契約額1位の三菱重工が、PFNに100億円。国産AIで機械の自律化を進める
三菱重工業とPreferred Networks(PFN)が2026年9月16日、資本業務提携を発表した。三菱重工は第三者割当増資でPFNに総額100億円を出資し、社会インフラと安全保障の機械・システムを自律化するAIを共同開発する。出資比率と具体的な開発対象は公表されていない。
防衛装備庁の中央調達で契約額が最も大きい会社が、AI半導体から基盤モデルまでを自社で作る会社の株主になる。
三菱重工業とPreferred Networks(PFN)は2026年9月16日、資本業務提携契約を8月31日に結んだと発表した。三菱重工は、PFN株主総会での承認など必要な手続きが済むことを条件に、第三者割当増資でPFNの株式を引き受け、総額100億円を出資する。両社は社会インフラと「ナショナルセキュリティ」の分野で、機械・システムの知能化・自律化に向けたAIを共同開発する。

6月の業務提携から3か月で、資本関係まで進んだ
両社は2026年6月2日に業務提携を発表していた。そのときのリリースは、三菱重工のハードウェア・制御・シミュレーション技術と、PFNのAI基盤モデル・AI半導体・計算基盤を組み合わせ、開発したAIを三菱重工の製品・システム群へ組み込むとしていた。狙いには「運用の知能化・自律化」「高度な予測保守」「危機管理の迅速化」を挙げ、2026年度内に資本業務提携を結ぶことを目指すと書いていた。2026年度内という目標に対し、業務提携から3か月で資本提携の契約に至った。

公表されたのは金額と方向性までだ。100億円でPFNの株式の何%を得るのか、PFNの評価額はいくらか、共同開発で最初に何を作るのか、いつ製品になるのかは、三菱重工とPFNのどちらのリリースにも書かれていない。三菱重工の取締役社長CEO、伊藤栄作氏はコメントで「これまでの共同研究・業務提携」に触れているが、共同研究の中身は明かしていない。
100億円は、トヨタ自動車が2017年にPFNへ出資した約105億円と同じ水準だ。トヨタはこの出資でPFNの外部筆頭株主になった。直近では、PFNはSBIグループをリードとする2024年12月のラウンドとそのエクステンションで、融資を含め累計240億円を集めている。
三菱重工は、防衛装備庁の中央調達で最大の契約相手
三菱重工はリリースで自社の事業領域に「航空・防衛・宇宙」を挙げる。「ナショナルセキュリティ」に対応するのはこの防衛事業だ。防衛装備庁の「中央調達の概略」(令和7年度版)によれば、2024年度の中央調達は全体で7,994件・5兆7,943億円。契約相手方別の1位は三菱重工業で、238件・1兆4,567億円だった。全体の約4分の1にあたる。主な調達品には、イージス・システム搭載艦、12式地対艦誘導弾能力向上型、島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)が並ぶ。2位の川崎重工業は6,383億円だった。
PFNの側にも、すでに防衛との接点がある。PFNは2026年7月、防衛装備庁 新世代装備研究所の「生成AI等を用いた作戦環境情報分析支援実現に関する実証」を受託した。自社開発の言語モデル「PLaMo 3.0 Prime」などを使い、文書、地理空間情報、部隊運用の情報を整理・分析して、自衛隊の各級司令部で「人の判断を支援する」システムの実現可能性を確かめる。PFNは同じ技術を大規模災害の初動対応にも応用できるとしている。
今回の提携がこれと違うのは、対象が「機械・システム」である点だ。PFNは搬送・清掃ロボットの子会社Preferred Roboticsを持ち、9月にはGENIACで屋内移動ロボット向けの基盤モデルの開発を始めた。司令部の判断支援から、物理的に動く機械の自律化へ。PFNが防衛・安全保障で担う範囲は、この提携で広がる可能性がある。
防衛省は、無人アセットと省人化を予算の柱に置く
防衛省が8月31日に公表した2027年度概算要求の概要は、「世界一無人アセットを駆使する組織」への変革を掲げた。無人機の取得に加え、陸上を走る無人車両として「汎用小型UGVの開発」に95億円+事項要求を計上している。AI活用の項目では、「人口減少下で深刻化する隊員不足」を背景に、目標の探知・識別、指揮統制、後方支援業務などにAIを重点的に使うとし、補給品の需要予測(3億円+事項要求)などを並べた。
人型ロボットについては、共同通信が9月22日、政府がヒューマノイドの防衛分野への活用に向けた研究に本格着手する検討に入ったと報じた。報道によれば、基地警備や物資輸送など後方支援任務を想定し、防衛装備庁を中心に取り組み、民間企業や大学のロボットが性能を競う「ロボティクス タスク チャレンジ」の開催も構想しているという。防衛省は2027年度概算要求に事項要求として盛り込んだとされ、直接の戦闘への投入には否定的だとも伝えている。ただし、防衛省が公表した概算要求の概要資料には「ヒューマノイド」「人型」の記載は見当たらず、HuRoC編集部は防衛省・防衛装備庁の一次資料でこの計画を確認できていない。
両論: 人手不足を補う道具か、研究が軍事に吸い寄せられる入り口か
推進する側の論拠は、人手と主権だ。防衛省は隊員不足を理由にAIと無人アセットによる省人化を進めるとしている。三菱重工とPFNのリリースは、外部環境に左右されずに日本が主体的にAIを使い続けるため、「AI技術・データ・運用ノウハウを国内に蓄積すること」の重要性を挙げる。PFNはAI半導体「MN-Core」から基盤モデル「PLaMo」までを自社で開発しており、両社はこの「国産」の技術スタックを提携の前提に置いている。
歯止めも用意されつつある。防衛省は2025年6月、「装備品等の研究開発における責任あるAI適用ガイドライン」を定めた。概要資料によれば、AIの出力が破壊能力を持つ機能に影響するものを「高リスク」に分類し、法的・政策的審査では「人間の関与が及ばない完全自律型致死兵器でないこと」を要件にする。同じ資料は、防衛省のAI装備品の研究例として「UGVシステムに関する研究」(2025〜2027年度)を挙げている。
慎重な側の論点は、研究の自律性と用途の線引きにある。日本学術会議は2017年3月の「軍事的安全保障研究に関する声明」で、1950年の「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」旨の声明と、1967年の「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を継承するとし、軍事的安全保障研究は「学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にある」と書いた。研究成果は「時に科学者の意図を離れて軍事目的に転用され」うるとも指摘している。PLaMo 3.0 Primeは、国立研究開発法人の情報通信研究機構(NICT)との共同研究成果を利用して開発されたとPFNは説明する。公的な研究の成果が防衛用途のシステムにつながる経路は、すでに存在している。
国際的なルールもまだ固まっていない。国連の特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の専門家会合は9月、自律型致死兵器システム(LAWS)の特徴づけを含む報告書を採択したが、法的拘束力はなく、「人間の関与」は常時の直接的な制御を意味しないと明記された(関連記事)。三菱重工とPFNの共同開発が、情報分析や予測保守にとどまるのか、兵器システムの制御にまで及ぶのか。両社のリリースは「知能化・自律化」と書くだけで、その範囲を示していない。
同じ基盤モデルが、工場にも基地にも向かいうる
ロボットの基盤モデルは、用途を限定しにくい技術だ。倉庫で荷を運ぶ移動ロボットに「通ってよい場所」を教えるモデルは、原理の上では、敷地の中で物資を運ぶほかの車両にも応用できる。共同通信の報道によれば、政府が構想する「ロボティクス タスク チャレンジ」は、民間企業や大学が開発したロボットを対象にするという。人手不足を補うために工場や倉庫へ入るロボットと、隊員不足を補うために基地へ入るロボットは、同じ技術の上に乗る可能性がある。
今回の提携は、民生のAI企業と防衛装備の最大手を資本で結んだ。100億円の使い道と最初の共同開発テーマが示されたとき、PFNの技術が三菱重工のどの製品に入るのかが見えてくる。そこには、人の判断をどこに残すかという設計上の選択も含まれる。
出典
- 三菱重工とPFN、資本業務提携契約を締結(三菱重工業) — 2026-09-16
- 三菱重工とPFN、資本業務提携契約を締結(Preferred Networks) — 2026-09-16
- 三菱重工とPreferred Networks、ミッションクリティカル領域における国産AI技術の共同開発で業務提携(三菱重工業) — 2026-06-02
- 三菱重工とPreferred Networks、ミッションクリティカル領域における国産AI技術の共同開発で業務提携(Preferred Networks) — 2026-06-02
- PFN、防衛装備庁の「生成AI等を用いた作戦環境情報分析支援実現に関する実証」を受託(Preferred Networks) — 2026-07-29
- 総額190億円の資金調達を実施(Preferred Networks) — 2024-12-23
- エクステンションラウンドで総額50億円の資金調達を実施(Preferred Networks) — 2025-04-30
- Preferred Networks、トヨタ自動車から約105億円の資金調達(Preferred Networks) — 2017-08-04
- 中央調達の概略 令和7年度版(防衛装備庁) — 2026-03
- 防衛力の変革に向けた予算 令和9年度概算要求の概要(防衛省) — 2026-08-31
- 装備品等の研究開発における責任あるAI適用ガイドライン(第1版)(防衛省) — 2025-06
- 責任あるAI適用ガイドライン 概要(防衛省) — 2025-06
- 軍事的安全保障研究に関する声明(日本学術会議) — 2017-03-24