産業と実装

2万5,000台の配備を前に、Atlasの常設訓練場が現代自動車の米工場に。2027年には10倍の建屋へ

Boston Dynamicsが2026年9月21日、現代自動車グループの米ジョージア州の工場HMGMAの敷地内に、ヒューマノイド「Atlas」の訓練・試験拠点RMACを開設したと発表した。部品の順序供給を訓練し、2027年に約10倍の新建屋へ移る。現代自動車は8月に「6月に開所し年末までに10倍」と説明しており、約10倍への拡張は2026年末から2027年へずれた。

自動車工場の一角で、ヒューマノイドが部品を組立の順番どおりに並べる練習をしている。練習の相手は実物の部品と、実物の梱包だ。

Boston Dynamics は2026年9月21日、現代自動車グループ(HMG)の米ジョージア州サバンナ近郊の工場 Hyundai Motor Group Metaplant America(HMGMA)の敷地内に、ヒューマノイド「Atlas」の訓練・試験拠点「Robotics Metaplant Application Center(RMAC)」を立ち上げたと発表した。発表文はRMACを、Atlasをグループの自動車生産に直接組み込むための「テストベッド兼トレーニングセンター」と位置づける。

RMACで作業するAtlas。青い車体の手前に作業台と部品棚が並ぶ(Boston Dynamics 公式リリースより)

期間限定の試験から、常設の訓練場へ

HMGMAでのAtlasの試験は今回が初めてではない。2025年10月には、組立ラインでルーフラックを仕分けるテストが行われている(TRIとの大規模行動モデルの記事)。

違いは期間だ。Boston Dynamicsの最高製品技術責任者 Zack Jackowski 氏はThe Robot Reportの取材に対し、これまでの導入は教訓を集めるための「期限付き(time-boxed)」の取り組みだったと説明した。RMACは工場と連携して動く、データ収集とアプリケーション試験の両方を担う「常設の施設」だという。

リリースによれば、Atlasが訓練しているのは組立前の部品の物流と順序付け、つまり部品を正しい順番に並べて組立工程に渡す作業だ。The Robot Reportは、持つ位置に制約のある部品の把持、両手での扱い、出荷用の梱包からの取り出しが求められると伝える。2030年までに対象を部品組立に広げ、将来は重量物の持ち上げのような反復的で負担の大きい作業も担わせる計画だ。

Jackowski 氏は同じ取材で、製品版Atlasで置いた設計上の前提は「ほぼ正しかった」と述べた。同誌によれば、学んでいることの1つは、ヒューマノイドが扱いやすいように治具や梱包をどう変えるかだという。ロボットを工場に合わせるだけでなく、工場の側もロボットに合わせて変わり始めている。

リリースに載ったJackowski 氏のコメントは「現代自動車グループとともに、企業規模のフィジカルAIを切り拓いている」というものだ。サプライチェーン、生産、試験、配備を最適化する戦略ができているとも述べた。

「6月に開所、年末に10倍」から「第1期稼働、来年10倍」へ

RMACの開所と拡張の時期の説明は、発表ごとに少しずつ違う。

日付発表RMACについての記載
2026-01-05HMG CES 2026 リリース2026年に米国で開所予定。AI ロボティクス事業の「エンジン」
2026-01-05Boston Dynamics 製品版Atlas発表2026年分のAtlasはRMACとGoogle DeepMind向けですべて埋まっている
2026-08-26現代自動車 CEOインベスターデイ6月に米国で開所。年末までに10倍に拡張
2026-09-21Boston Dynamics リリースRMACを立ち上げ。第1期は稼働中。来年HMGMA内の新建屋へ移り、約10倍に

6月の開所と9月の発表の関係は、Boston Dynamicsの英語リリースと8月の現代自動車の発表を読む限り説明されていない。9月22日に現代自動車グループの説明として伝えた韓国の報道は、RMACは6月から試験運用しており、今回正式運用に入ったとしている(HuRoC Mediaは韓国語の一次資料を確認できなかった)。はっきりしているのは、約10倍への拡張が「2026年末まで」から「2027年」に後ろへずれたことだ。

施設の面積、訓練中のAtlasの台数、人員は公表されていない。「約10倍」が何を基準にした倍率なのかも書かれていない。

VRヘッドセットを着けた人の奥で、黄色い金網と赤い仕切りの内側にAtlasが立つ(Boston Dynamics 公式リリースより)

公開された写真の1枚では、手前の人がVRヘッドセットとコントローラーを持ち、奥のAtlasは黄色い金網と赤い仕切りに囲まれた区画の中にいる。The Robot Reportは、訓練に遠隔操作やシミュレーションでの強化学習を使うと伝えている。1月の製品発表でBoston Dynamicsは、Atlasの安全機能に人の検知と「柵なしの安全防護(fenceless guarding)」を挙げていた。公開された訓練風景の少なくとも1枚は、囲いの中にある。開発中の訓練区画をどう仕切るかと、製品としての安全機能は別の話でもあり、写真から運用方針までは読み取れない。

2万5,000台が一次発表に載った

今回のリリースで数字が1つ増えた。グループはAtlasの配備を世界の拠点に急いで広げる計画で、「今後数年で現代自動車と起亜の世界の工場に2万5,000台」から始めるという。米国には年3万台のロボットを生産できる新工場を設ける。

HuRoC Mediaは8月の現代自動車の労使交渉の記事で、報道に広く出ている「2万5,000台」をCES 2026のリリースと8月のインベスターデイのリリースでは確認できなかったと書いた。その数字が、今回Boston Dynamicsの公式リリースに載った。ただし時期は「今後数年」とされ、工場ごとの内訳や工程は示されていない。CES 2026のリリースが示した工程表は、2028年に部品の順序供給、2030年に部品組立だ。

資本関係も固まりつつある。HMGは7月16日の声明で、グループの株主がソフトバンクの保有するBoston Dynamics株の全量取得を進めていると明らかにした。ソフトバンクによるプットオプション行使の通知を受けた手続きだ。8月のインベスターデイでホセ・ムニョスCEOは「Boston Dynamicsは今や現代自動車グループの一員だ」と述べている。開発の本拠は引き続きマサチューセッツ州で、Boston Dynamicsは6月、ウォルサムに32万3,000平方フィートの施設を構え、1億ドルを投じて2033年までに1,250人を新たに雇う計画を発表した。研究開発はボストン近郊、現場での訓練はジョージアという分担になる。

訓練の場は、現代自動車の工場の外へ

リリースの後半には、もう1つの計画が書かれている。Boston Dynamicsは2027年から、自動車以外の業種での用途も探る。四脚ロボットSpotと荷降ろしロボットStretchの既存顧客のうち、製造、航空宇宙、半導体、物流、食品・飲料、ライフサイエンスの企業と、データ収集などを広げてAtlasの訓練を続ける協議をしているという。1月の発表にあった「2027年初めに顧客を追加する」という予定とつながる。

工場を訓練の場として開く動きはほかにもある。中国ではBYDが自社工場をロボットの訓練場として開放した。米国のAgility Roboticsは、顧客の倉庫や工場に置いたDigitの稼働時間を6万5,000時間と数え、それを次の機体の開発に回している。日本では矢崎総業・山善・Cuebusが、ロボット倉庫から出た部品をヒューマノイドが次工程へ渡す実証を9月21日に始めた。部品を次の工程へ順番どおりに渡すという作業は、RMACの最初の課題と重なる。

RMACで治具や梱包の変え方を学ぶということは、Atlasが本格的に入った工場では、部品の荷姿そのものが変わりうるということでもある。部品を納める側には、ヒューマノイドがつかみやすい梱包や、取り出しやすい向きが求められるかもしれない。8月の現代自動車の労使交渉の過程では、金属労組慶州支部の支部長が、ロボットへの投資の負担が部品メーカーの納入単価の引き下げに転嫁されていると訴えていた。ロボットの訓練場で決まる仕様が、ラインの外の中小の部品メーカーにどう届くのか。その答えは、10倍に広がる来年の建屋の中で形になっていく。


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