ヒト型ロボットAtlasが賃金交渉の議題に。現代自動車の労使、全面ストを経てフィジカルAIを合意文に明記
現代自動車の労働組合は2026年の賃金交渉で、AI導入に伴う雇用保障を要求に掲げ、8月21日に約3万8千人が全面ストに入った。8月25日の暫定合意は「フィジカルAIとロボティクスの導入は生存に不可欠」と労使で確認し、情報共有と技術職500人の新規採用を盛り込んだ。
工場にまだ1台も入っていないロボットが、組合員4万人の賃金交渉の議題になった。
韓国・蔚山に主力工場を置く現代自動車で、2026年の賃金交渉が5月6日の顔合わせから111日かかった。途中の8月21日には、組合が全日の全面ストに入った。争点の中心は基本給や成果給、定年延長だったが、今年はBoston Dynamicsのヒト型ロボット「Atlas」の導入が交渉の俎上に載った。8月25日に会社が出した暫定合意のリリースには、「フィジカルAI、ロボティクス」という言葉が入っている。

Atlasは2028年、米ジョージア州の工場で部品の順序供給から始まる
発端は1月5日だ。現代自動車グループはCES 2026でAIロボティクス戦略を発表し、米ジョージア州サバンナ近郊の Hyundai Motor Group Metaplant America(HMGMA)を含むグローバルの生産網にAtlasを組み込むとした。導入は工程ごとの検証を経て段階的に進め、2028年に安全性と品質の効果が確かめられた部品の順序供給(sequencing)から始める。2030年には部品組立に広げ、長期的には反復動作や重量物の作業も担わせる。2028年までに年3万台のロボット生産体制を築く目標も同じ発表に入っている。
同日、Boston Dynamicsは製品版Atlasを公開した。自由度56、可搬重量50kg、リーチ2.3m、動作温度はマイナス20〜40℃で、バッテリーは自律で交換する。2026年分の出荷はグループの試験拠点RMAC(Robot Metaplant Application Center)とGoogle DeepMind向けで「すでにすべて埋まっている」という。

グループはこの戦略を「人間中心の自動化」と呼ぶ。人が全体の制御を保ち、ロボットは労働集約的な作業や危険な作業を担う。人間の作業者はロボットの訓練と監督に集中する、という説明だ。
組合が求めたのは協約に基づく協議だった
全国金属労働組合(金属労組)の現代自動車支部は、この発表に反発した。金属労組が1月29日に出した論評によれば、支部はAtlasを前面に出した会社側の「労組パッシング」を指摘し、団体協約に沿った協議を求めた。論評は、現代自動車の労使協約にはすでに「新技術導入時にその計画を労働組合に通知し、雇用安定委員会を構成して審議・議決する」内容があると書き、「雇用安定委員会は技術導入を阻む機構ではない」と続ける。
論評のもう1つの標的は李在明(イ・ジェミョン)大統領だった。論評によれば、大統領はロボット導入を「流れていく巨大な荷車」にたとえ、協約の順守を求める組合を批判した。金属労組は、組合の声が「21世紀版ラッダイト」に歪曲されたと反論している。
5月8日付の支部の機関紙は、交渉で示した要求を列挙している。基本給14万9,600ウォンの引き上げ、純利益の30%を成果給に、賞与800%への引き上げ。定年延長と賃金ピーク制の廃止、正規職の増員と国内工場への投資拡大。労働時間の短縮と完全月給制。そのうえで「AI導入に伴う雇用保障と労働基本権の保障」を未来の課題として加えた。金属労組全体も6月10日の決起大会で、自動車業種の要求に「AI関連の雇用及び労働条件の保障」を置いている。
争議投票から8月21日の全面ストまで
支部は交渉決裂を受け、6月24日に全組合員を対象とする争議行為の賛否投票を実施した。スト権を得た後、会社のリリースが言う「7月以降の組合のスト突入」が始まる。7月15日の金属労組第1次ストには現代自動車も加わった。
8月21日、金属労組の自動車業種共同ストの一環として、現代自動車支部の全組合員約3万8千人が全面ストに入った。2日前の記者会見で支部長イ・ジョンチョル氏が前面に出したのは、社内留保金の積み上がりと、所得の空白が生じない定年延長だった。同じ会見では金属労組慶州支部の支部長が「現代自動車の資本はロボットと未来産業への投資を拡大し、もはや自動車だけを作る会社ではなくロボット会社になると言う」と述べ、その投資負担が部品メーカーの納入単価の引き下げに転嫁されていると訴えている。
ロボットは、賃金・定年・下請け単価と並ぶ争点の1つとして交渉の場にあった。
暫定合意に入ったのは「共感」と「情報共有」、そして500人の採用
8月25日、蔚山工場本館で開かれた16回目の交渉で、チェ・ヨンイル代表理事とイ・ジョンチョル支部長ら労使の交渉代表が暫定合意をまとめた。会社のリリースは、労使が「フィジカルAI、ロボティクスなど未来技術の導入が企業生存のための必要不可欠な事項」だという点で共感を形成したと書く。そのうえで、新事業と新技術の進捗を透明に共有し、産業転換に労使で共同対応するとした。
雇用では、2027年下半期に技術職200人、2028年に300人を新規採用する。リリースは、国内工場の再編で第1工場と「#42ライン」の建て替えが進み、来年から大規模な配置転換が予定されているため、新規採用は現実的に容易でない状況だとも明かしている。賃金面は基本給10万ウォン引き上げ(号俸昇給分を含む)、経営成果金400%+1,270万ウォン、株式15株、福祉ポイント50万ウォン。
会社の発表文に書かれているのはここまでだ。ロボット導入に組合の同意を必要とする条項や、配置台数・工程の上限は含まれていない。既存協約にある雇用安定委員会の運用がどう変わるのかも、発表文からは読み取れない。暫定合意は組合員の賛否投票を経て確定する。韓国メディアは8月31日に可決されたと伝えるが、会社と支部の公開発表では投票結果を確認できなかった。
翌日の投資家向け説明では、Atlasの量産と販売網が語られた
暫定合意の翌日、現代自動車はソウルで2026年CEOインベスターデイを開いた。リリースによれば、RMACは6月に米国で開所し、年末までに敷地を現在の10倍に広げる。Atlasは2028年からHMGMAに実戦配備する計画だ。
ホセ・ムニョス社長兼CEOは「我々はSpotとStretchを作っており、まもなくAtlasを量産する。ディーラーを通じてロボットを販売する流通網も持ち、Hyundai Capitalはロボット販売の金融を検討している」と述べた。
中国ではBYDが工場をロボットの訓練場として開放し、XPengが量産を掲げる。一方、米国でヒューマノイドの上場を目指すAgility Roboticsの開示書類には、実売の小ささが並ぶ。どの国の発表も「何台作るか」を語るが、現代自動車で起きたのは、その台数を誰とどう決めるのかという交渉だった。
現代自動車の暫定合意が決めたのは、情報を共有し、共同で対応するという枠組みだけだ。2028年にAtlasがジョージアの工場で部品を並べ始めるとき、蔚山の雇用安定委員会の机に何が載るのかは、まだ誰の文書にも書かれていない。
出典
- Hyundai Motor Group Announces AI Robotics Strategy to Lead Human-Centered Robotics Era at CES 2026(現代自動車グループ) — 2026-01-05
- Boston Dynamics Unveils New Atlas Robot to Revolutionize Industry(Boston Dynamics) — 2026-01-05
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