産業と実装

「受注1万台」は誰が数えたか。中国ロボット新興4社、9月の資金調達を元の発表からたどる

9月中旬、KinetixAI(超維動力)、LinkerBot(霊心巧手)、天機智能、西湖機器人の資金調達が日本語でも相次いで報じられた。元の発表と中国語の報道に当たると、9月に新しく資金を得たのは3社で、金額が明らかなのはKinetixAIの「5億元超」だけ。「受注1万台」は、天機智能では自社の説明、LinkerBotでは会社の発表を確認できない数字だった。

9月中旬、中国のロボット系スタートアップ4社の資金調達が、日本語のニュースでも立て続けに報じられた。一つのAIで複数のロボットを動かす KinetixAI(超維動力)、ロボットハンドの LinkerBot(霊心巧手)、双腕ロボットの 天機智能(TianJi)、全身制御AIの 西湖機器人(Westlake Robotics) だ。見出しには「評価額4600億円」「受注1万台」「120億円調達」といった数字が並んだ。

元の発表と中国語の報道に当たり直すと、数字の意味は見出しと少しずつずれていた。9月に新しい調達を発表したのは3社で、そのうち金額が明らかなのは1社だけ。「受注1万台」は2社について語られていたが、出どころがはっきりしているのは1社だった。

天機智能の力制御型の人型双腕ロボット(天機智能 / Gento Robotics 公式サイト)

4社の「9月の数字」を元の単位に戻す

円換算は、欧州中央銀行(ECB)が公表する2026年9月22日の参照レート(1ユーロ=180.17円、7.6803元、1.1463ドル)から交差レートを求めた。1元=約23.46円、1ドル=約157.18円で、以下の円額はすべてこのレートによる。

企業9月の発表元の金額・評価額円換算(参考)
KinetixAI(超維動力、深圳)9月11日、天使+ラウンド系列5億元超約117億円超
天機智能(広東省東莞)9月8日、B++ラウンド金額非公表。5月時点の投資後評価額が「100億元近く」評価額 約2,350億円
西湖機器人(杭州)9月11日、A1ラウンド「数億元」。8月までの半年4ラウンド累計が5億元累計 約117億円
LinkerBot(霊心巧手、北京)9月の新規調達はなし4月のB+ラウンドで評価額200億元(ロイターは30億ドル)約4,690億円

KinetixAI:設立1年余りで5億元超

KinetixAIは9月11日、天使+ラウンド系列で5億元超を調達したと発表した。網易科技の報道によれば、出資したのは祥峰資本(Vertex Ventures China)、方広資本、万石資本などで、表現は「加注(追加出資)」だ。Vertex Ventures China は自社サイトで、シンガポールのテマセク・ホールディングスが支えるVCだと説明している。日本語の一部報道は「テマセク系から120億円超」と書いたが、元の発表は既存投資家を含む複数社の追加出資で、テマセク系が単独で出したとは書いていない。

網易科技の報道が挙げる創業メンバーは、共同創業者兼CEOの喩傑氏(華為の自動運転部門出身)、香港大学教授の羅平氏、小鵬(XPeng)でロボット機体の責任者だった鄭存遠氏の3人。公式サイトは設立を2025年7月とするが、9月の中国語報道は2025年9月としている。

「一つのAIで複数のロボットを動かす」という説明の裏付けとして確認できるのは、香港大学との共同研究「SMASH」だ。ヒューマノイドが外部カメラに頼らず、機体に積んだカメラだけで卓球の打ち合いを続ける研究で、論文では人の動作データを Unitree の G1 に移し替えて学習させている。新民晩報の報道は、同じアルゴリズムが異なるロボットに適応できると伝える。ただ、論文で実験に使われた機体は G1 だけで、別の機体に移したときの成績は論文には載っていない。

KinetixAI の研究ページに掲載された、人の動きを取り込むヒューマノイドの全身制御研究の画像(KinetixAI)

自社機の KAI Bot は、新民晩報の報道によれば身長173cm、体重70kg、全身の自由度117(4月の発表時の報道では115)。ロボットハンド KAI Hand は、製品ページで37自由度(能動20、受動1、コンプライアンス16)と公表している。日本語報道にある「2027年末に小規模生産」という計画は、今回確認した中国語の発表記事には見当たらなかった。

西湖機器人:9月の記事は8月の調達を伝えていた

9月17日に日本語で報じられた「5億元(約120億円)調達」は、中国の36Krが8月12日に報じた記事の翻訳にあたる。元記事の書き方は「6カ月で5億元を調達し、半年で4ラウンドを完了した」で、5億元は4回分の累計だ。投資家は賽富(SAIF)、小苗朗程、河南投資集団匯融基金、海願基金など。

9月の新しい動きは別にある。9月11日の報道によれば、8月のAラウンドに続いてA1ラウンドを完了し、投資家として海願資本、翠微基金、銀杏谷資本、西湖科創投、中山創投などが挙げられている。金額は「数億元」とだけ示されている。

創業者の王東林氏は西湖大学の終身教授で人工智能系副主任、共同創業者の張岳氏は同大学の終身教授で工学院副院長。主力は、人の全身の動きをロボットの動作に変換する汎用運動モデル「GAE(General Action Expert)」だ。受注について、36Krの記事は王氏へのインタビューの中で、GAEの「関連する受注は数千万(元)に達した」と書いている。日本語報道の「手持ち受注1億元近く」は、元記事では確認できなかった。

天機智能:評価額「100億元近く」は5月の数字

天機智能は、電子部品大手の長盈精密(Everwin Precision)の子会社として2015年に東莞で設立された産業用ロボットの会社で、4社の中では最も古い。9月8日、アント・グループとベルギーの投資会社Sofinaが共同で主導するB++ラウンドを完了したと界面新聞が報じた。既存株主の高榕創投やテンセントも追加出資した。金額は公表されていない。

見出しに使われた「評価額2300億円規模」は、5月のB・B+ラウンド(計10億元)のときの「投資後評価額100億元近く」を円換算したものだ。5月のラウンドは高瓴創投と美団の投資部門が主導し、テンセントなども加わった。9月のB++ラウンド後の評価額は示されていない。

LinkerBot:9月の新規調達ではなく、4月の評価額

LinkerBotについての「評価額4600億円」は、2026年4月のB+ラウンド時点の評価額200億元を換算したものだ。ロイターは2026年5月4日、このラウンドの評価額を30億ドルと報じ、同社が次回の調達で60億ドル(約9,430億円)の評価額を目指すと伝えた。それより前の2月には、近15億元のBラウンド(約352億円)を道得投資と盛世投資の主導で完了している。9月中旬に新しい調達の発表はなかった。

LinkerBot の Linker Hand シリーズ(LinkerBot 公式サイト)

「受注1万台」の出どころ

見出しに並んだ「受注1万台」は、2社で性質が違う。

天機智能の数字は、同社が自分で書いている。公式サイトの2026年4月9日の記事は、2025年について「4カ月で2,000台超の力制御型人型双腕を納入」、2026年について「受注は既に1万台を超えた(Orders have already surpassed 10,000 units)」と記す。5月の資金調達の報道では、これが「2026年1〜3月期だけで受注残が1万台を突破」という表現になり、顧客は「世界の人型ロボット機体メーカーとエンボディドAIのユニコーン45社」と説明された。

どの言い方でも、顧客名、受注金額、確定した発注か、条件付きの枠契約か、という内訳は示されていない。天機智能の主な顧客は、ヒューマノイドの機体メーカーだ。その機体メーカー自身が資金調達で開発を進めている段階にあり、1万台の注文が最終的にどれだけ出荷と支払いに変わるかは、機体側の量産の進み具合にも左右される。

LinkerBotの「2026年初めの時点で累計受注1万台超」は、光錐智能が7月13日の記事で「2026年初めに累計受注1万台突破を発表」と書いているが、その発表そのものは同社の公式サイトでも、2月の資金調達の発表でも確認できなかった。鳌頭財経の7月15日の記事は、別の報道を引いて「2026年初めの受注残が4億元を突破」と金額で書き、そのうち枠契約と確定受注の割合、納入時期、回収状況は開示されていないと指摘している。台数と金額で、基準が揃っていない。会社自身が一貫して出している数字は、2月の発表にある「世界で唯一、高自由度ハンドを月に1,000台生産」「高自由度ハンド市場のシェア80%超」「2026年の納入目標は5万〜10万台」で、いずれも第三者による確認は示されていない。CEOの周永(Alex Zhou)氏はロイターに、月産を「ほぼ5,000台」から近く1万台に引き上げると語っている。

上場の熱と、評価額への疑問

この資金の流れは、8月19日に科創板へ上場した宇樹科技(Unitree)の後に続いている。Unitree は発行PER219倍で上場し(上場時の記事)、9月9日の終値は初日高値から53%下げた(続報)。上場で得られる評価が、未上場の段階の値付けを引き上げている。

LinkerBotについては、36Krに7月15日に掲載された鳌頭財経の記事が、2027年に香港取引所へ上場を申請する計画が「伝えられている」とし、招銀国際、中信証券、HSBCが共同スポンサーを務めると書いた。同じ記事は、2025年の売上2.6億元のうち第4四半期が96%を占めたと書き、年末の集中計上や販売チャネルへの押し込みの可能性を指摘している。資金調達が上場前の値付けを重ねる形になっていると論じ、中国語で「撃鼓伝花(音楽が止まるまで花を回すゲーム)」という言葉を使った。光錐智能の7月13日の記事は、調査会社・高工(GGII)の予測で2030年の器用ハンド市場全体が50億ドルにとどまるとし、会社1社の目標評価額が市場全体を上回ると書いている。同じ記事によれば、高工の集計で2025年の器用ハンドの販売は業界全体で1.92万台だった。

アント・グループの名前が何度も出てくる点も見ておきたい。アントはLinkerBotの初期投資家で、天機智能のB++ラウンドを主導した。8月には視触覚センサーの Daimon Robotics のラウンドも主導している(Daimon の記事)。ハンド、腕、センサーという部品の層に、同じ大口の投資家が並行して資金を入れている。

部品と「脳」に資金が向かう

4社のうち完成品のヒューマノイドを主力にしているのはKinetixAIだけで、それも「一つのAIを他社の機体にも載せる」ことを売りにしている。LinkerBotはハンド、天機智能は腕、西湖機器人は全身制御のモデルと、残る3社は機体メーカーに部品や頭脳を供給する側だ。天機智能の顧客が45社の機体メーカーなどに広がっているという説明は、中国でそれだけ多くの機体メーカーが並行して開発を進めていることの裏返しでもある。

HuRoC Mediaは、UBTECHが上半期に921台を販売しながら作業成功率を「実験室環境で75%」としている点を取り上げた。部品の受注台数は、機体がどれだけ現場で動くかの手前にある数字だ。機体側の稼働データが出てこない限り、部品の「1万台」が工場や倉庫で何台分の仕事になるのかは、まだ誰にも数えられない。


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