11万点の圧力を120Hzで読む指先。深圳のDaimon Robotics、Ant Group主導で数億元を調達
深圳の視触覚センサー企業 Daimon Robotics(戴盟机器人)が2026年8月11日、Ant Group がリードする数億元規模の戦略ラウンドを発表した。主力センサーの有効センシング点は110,592、サンプリングは120Hz。技術系譜は MIT の GelSight から香港科技大の研究へつながる。
中国・深圳の Daimon Robotics(戴盟机器人) が2026年8月11日、数億元規模の戦略ラウンドを完了したと発表した。リードは Ant Group(螞蟻集団)で、触覚分野への初の出資になる。約2か月前に1億元規模のシリーズAを終えたばかりだった。
通信事業者と産業機器メーカーが同じ株主表に並ぶ
発表によれば既存株主が超過応募で追加出資し、投資家には招商局資本、聯想創投、匯川産業投資、中国移動、中国電信が並ぶ。同社は役割分担も示す。センサーの量産は聯想、データ収集網は中国移動、産業現場への展開は匯川、港湾・物流は招商局。中国移動とは湖南省郴州に「具身データ収集5Sストア」を開設し、第1期で機材1,000セットを配備、フル稼働時に年100万時間の実操作データを生む計画とする。
弾性体をカメラで内側から撮り、変形から力を読む
視触覚センサーは、接触面に透明・半透明の弾性体を置き、その内側からカメラで変形を撮る。表面パターンのずれと押し込み量から、接触形状、3次元の力分布、すべりを推定する。触覚を電極の点数で数えるのではなく、画像の画素で数えられるのが構造上の利点になる。
同社のDM-Tac W2の公表仕様は、有効センシング点110,592、センシング解像度384×288、サンプリング120Hz、消費電力0.5W、IP67。耐久は押込500万回・摩擦20万回の試験を通したとする。指先向けのDM-Tac Fは180Hzで、細身の版は40×14×14mm しかない。2025年4月の初代 DM-Tac Wは、1cm²あたり4万個のセンシングユニットで、人の手の約240個/cm²を上回るとされていた。
GelSight から DelTact へ、学術起源のはっきりした技術
原理の系譜は追える。MIT の Adelson 研が2017年に Sensors 誌で公開したGelSightが、この方式を高解像度のロボット触覚センサーとして確立した。
Daimon の直接の親は香港科技大学(HKUST)だ。共同創業者・チーフサイエンティストの王煜(Michael Yu Wang)は CMU の Matthew T. Mason の最初の博士修了生で、2015年に HKUST ロボティクス研究所を設立して初代所長を務めた。触覚R&D責任者の杜逸派は、王煜らとの共著DelTact(2022年2月)の著者にあたる。密なランダムカラーパターンと密オプティカルフローで798×586・675mm²・40Hz を出した論文が、4年で 120Hz・IP67・量産という製品仕様に置き換わったことになる。
「8割」は誰がどう数えたのかが書かれていない
同社は8つの「世界一」を並べる。「視触覚機器で万台級出荷を初めて実現」「出荷量・売上規模で世界一」、そして**「ロボットハンド(灵巧手)メーカーの視触覚カバー率80%を業界で初めて達成」**。だが母集団も期間も「カバー」の定義も示されていない。顧客200社超(うち海外50社超)、OpenAI・Figure・Physical Intelligence・Skild AI・Meta・BMW・Google DeepMind への納入完了という記述も、出所は自社発表だけで第三者の集計はない。
検証できる部分もある。データセット Daimon-Infinity は総量100万時間超のうち1万時間が ModelScope で公開されている。評価ベンチマーク RobOmni も2026年6月5日に Galbot と共同公開された。一方、10Bパラメータのモデル Daimon-TWM の「無外乱時に π0.5 の2倍、外乱下で最大10倍」は自社評価で、センサー単価も公表されていない。
触覚に資金が集まる理由自体ははっきりしている。視覚は事前学習で水準に達したが、掴んだものが滑っているかは見ただけでは分からない。中国ではBYD が自社工場を PaXini に開放したように、センサーとデータ供給源を垂直に束ねる動きが並ぶ。
日本にも視触覚センサーはある
同じ原理の実用化は日本でも進んでいる。FingerVision は東北大学発で、山口明彦が CMU 在籍時に開発した弾性体+カメラのセンサーを事業化した。JST のSTART プログラム「視覚と触覚を合わせ持つ革新センサ FingerVision 事業化」(2018〜2020年度、東北大学大学院情報科学研究科)が起点にある。CES Innovation Awards 2025 の Honoree に選ばれ、惣菜の盛り付けや植物工場の収穫向けに月25万円からのレンタルを提供する。
技術の出自は近く、狙う出口が違う。日本側はセンサーを載せた作業システムを現場に売り、Daimon はセンサー単体を万台規模で出す。差がついているのは原理ではなく、量産と採用の段数のほうだ。
出典
- Press Releases(Daimon Robotics 公式) — 2026-09-08 参照
- Ant Group Leads Investment in a Scarce Embodied AI Team(同社の資金調達発表全文) — 2026-08-11
- DM-Tac W2(Daimon Robotics 公式製品ページ) — 2026-09-08 参照
- DM-Tac F(Daimon Robotics 公式製品ページ) — 2026-09-08 参照
- Daimon-Infinity(Daimon Robotics 公式製品ページ) — 2026-09-08 参照
- Daimon Robotics Product Line Offically Launched, Accelerating the Industrialization of Embodied Intelligence(Daimon Robotics 発表) — 2025-04-16
- Daimon and Galbot Jointly Release RobOmni, An Omni-Modal Evaluation Benchmark Including Tactile Sensing for Physical Interaction(Daimon Robotics 発表) — 2026-06-05
- DelTact: A Vision-based Tactile Sensor Using Dense Color Pattern(arXiv:2202.02179) — 2022-02-04
- GelSight: High-Resolution Robot Tactile Sensors for Estimating Geometry and Force(Sensors 17(12), 2762) — 2017-11-29
- 株式会社FingerVision(公式サイト) — 2026-09-08 参照
- 視覚と触覚を合わせ持つ革新センサFingerVision事業化(JST プロジェクトデータベース) — 2026-09-08 参照