CADデータを実寸で被って溶接をリハーサルする。イマクリエイトの「WeldNext」が訓練用から現場用へ
イマクリエイトのMR溶接シミュレーションツール「WeldNext」がVer.2.0.0になり、ユーザー企業のCADデータを実物と同じ寸法でMR空間に取り込めるようになった。人材育成のための訓練ツールから、本番前に手順とリスクを洗い出す現場用ツールへと位置づけを変える更新になる。
イマクリエイト株式会社が、MR(複合現実)溶接シミュレーションツール「WeldNext」を Ver.2.0.0 に更新した。2026年8月のリリースで、株式会社神戸製鋼所 溶接事業部門およびコベルコ溶接テクノ株式会社との共同事業として提供される。

訓練から「本番前」へ
この更新の要点は、ツールの位置づけそのものが変わったことにある。
これまで WeldNext は、人材育成・技能訓練の文脈で提供されてきた。溶接の姿勢や運棒を、実際に火を使わずに練習する用途だ。Ver.2.0.0 で加わったのは、ユーザー企業が持っているCADデータをそのまま MR モードに取り込み、実際の作業パーツと同じ寸法で「本番前のリハーサル」をする機能になる。
同社が挙げる背景は具体的だ。製造業・建設業の溶接現場では非定型・一品ものの部材が多く、事前確認が足りないと手戻り・品質のばらつき・安全リスクにつながる。一方で実物大の事前リハーサルをやろうとすれば、部材の手配・輸送・設置スペースの確保にコストと時間がかかる。
練習のためのバーチャルではなく、実際に作る物のバーチャルを用意する、という設計変更になる。
データを外に出さない構成
技術面で押さえておきたいのは、CADデータの扱い方だ。利用の流れは3段階で示されている。
- Windows PC に専用アプリケーション「WeldNext Studio」をインストール
- Meta Quest 3 と PC を USB ケーブルで有線接続
- アプリ内でCADデータを最適化してヘッドセットへ転送し、MRモードで利用
つまりCADデータはPCとヘッドセットの間の有線接続だけで転送され、外部サーバーにはアップロードされない。製造業のCADデータは設計そのものであり、クラウド経由の処理を敬遠する現場は多い。この構成はその懸念に直接答えている(ただし WeldNext+ のライセンス認証にはネットワーク接続が必要)。
対応形式は、プレスリリースでは STEP、公式製品ページでは STEP / IFC と記載されており、資料間で食い違っている。今後拡充予定とされる。ポリゴン数が膨大なデータは処理に時間がかかる場合がある、という注記も付く。
本体は被覆アーク・半自動・TIG の3種の溶接法に対応し、すみ肉と開先に対応する。必要な装備は Meta Quest 3 と溶接種別の専用アタッチメントのみ。CADリハーサル機能は年間サブスクリプションの WeldNext+ 加入企業が対象となる。
公表されていないこと
判断材料として欠けている情報は多い。
- 価格: 本体もWeldNext+の年間サブスクリプション料金も完全に非公表(問い合わせ形式)
- 導入企業数・導入実績・社名: 非公表
- 「コストと時間を削減」の定量値: 削減率も削減額も記載なし
- 学習効果検証の詳細: 旧製品「NUP溶接」(2020〜2025年販売)でVR組と実技組を比較し、VR組で実技組と同等以上の習熟効果を確認したとするが、被験者数・検証条件・評価指標は非公表で、かつ自社検証である
- CADデータの上限ポリゴン数・処理時間: 非公表
溶接は、日本の中小製造業で技能継承が最も難しい工程の一つだ。VR/MR による訓練は各社が試みてきたが、「練習にはなるが本番とは違う」という壁が常にあった。実物のCADを実寸で被れるなら、その距離は縮まる。
ただし、投資判断をするには価格が要る。MRによる事前リハーサルが、部材を実際に仮組みするコストを下回るかどうかが導入の分かれ目になるが、その比較に必要な数字は現時点で公開されていない。