産業と実装

JAKAがTeradyneに反撃、争点は相手の公表内容。UPC提訴から1週間での応酬になった

中国の協働ロボットメーカー JAKA が、Universal Robots 親会社 Teradyne Robotics の公表内容に対して差止めを求める法的手続きを開始した。特許の無効審判でも別特許での侵害提訴でもない。JAKA は法律顧問が2026年9月2日時点で自社に対する係属を確認できなかったとしている。

中国の協働ロボット(cobot)メーカー JAKA Robotics が2026年9月3日、Universal Robots の親会社 Teradyne Robotics に対する法的手続きを開始したと発表した。ただし争点は特許の有効性ではなく、Teradyne 側の公表の差止めである。8月27日の提訴から、対立の軸が一段ずれた。

JAKA Robotics の2026年9月3日付リリース(JAKA Robotics)

反撃の中身は「無効審判」でも「別特許での提訴」でもない

JAKA のドイツ・フュルト発の9月3日付声明は、開始した手続きを “legal action seeking injunctive relief” と書く。目的は「虚偽で、誤解を招き、損害を与える」とみなす言明の公表を止めさせることだと明記されている。

つまりこれは、欧州統一特許裁判所(UPC)での無効反訴(revocation counterclaim)でも、JAKA 保有の別特許による侵害提訴でもない。対象は特許ではなく Teradyne の「発言」である。UPC の無効反訴は答弁とセットで提出するもので、期限は訴状の送達から起算される。送達が済んでいなければ、反訴の土俵にも上がれない。

訴状が届いていないという主張と、その反論

JAKA は同じ声明で、法律顧問が裁判所システムで確認した結果、2026年9月2日時点で特許侵害に関する手続きは自社に対して提起も開始もされていないとしている。8月28日の第一声明では、デンマークの記者からのコメント依頼で提訴を初めて知ったと書いていた。

Universal Robots の研究開発担当副社長兼CTO David Brandt 氏は、コペンハーゲンの裁判所に提出済みで、送達が済んでいないなら裁判所側の所要時間によるものだと反論している。事件番号も対象特許の番号も双方が公表しておらず、本稿執筆時点で UPC の公開記録からも事件を特定できなかった。争いの起点にある特許が、外部からは特定できない状態が続いている。

UPCA 34条の射程と、英国・スペインが「含まれる」根拠

Teradyne の8月27日のリリースは、判決が UPC 参加18か国中17か国に及びうるとし、非締約国の英国とスペインも「この事件に含まれる」と書く。だがUPC 協定34条は、判決の効力を「欧州特許が効力を有する締約国の領域」に限っている。

背景にはEU司法裁判所が2025年2月25日に出した BSH Hausgeräte 対 Electrolux 判決(C-339/22、ECLI:EU:C:2025:108)があるとみられる。被告の住所地国の裁判所は第三国で有効化された特許の侵害も判断できる、とした判決だ。一度の手続きが欧州のほぼ全域に、場合によっては協定の外まで届きうる。

買い手に向けられた文言

Universal Robots は「Trust in the Original」と題した購買者向けページで、IPを侵害する製品を使うこと自体が違法であり、法的判断は「強制的な変更、製品の撤去、供給の中断」につながりうると書き、調達向けのチェックリストまで配っている。JAKA が差止めを求めているのはこの種の言明で、特許の主張の存在は侵害の立証ではない、というのが反論の骨子である。

背景の数字は Teradyne の2025年12月期 Form 10-K にある。Robotics セグメントの売上は3億0830万ドルで、前年の3億6480万ドルから15.5%減、連結売上に占める比率は13%から10%に下がった。同じ10-Kは2008年以来の cobot 累計出荷を11万台超とし、競合として Techman、Doosan、JAKA、AUBO Robotics を名指ししている。

日本の現場では、制度が二重に違う

欧州で差止めが出ても、日本での販売可否が直接決まるわけではない。特許権は国ごとに成立し、UPC の判決の効力は協定34条により締約国の領域にとどまる。日本で差止めを求めるなら別の手続きが要る。ただし供給網は分かれていないため、欧州で機種が止まれば生産計画には響く。

安全性の判断も枠組みが違う。労働安全衛生規則150条の4は定格出力80Wを超える産業用ロボットに柵や囲いを求めるが、厚生労働省の平成25年12月24日付通達(基発1224第2号)により、リスクアセスメントで危険のおそれがないと評価できる場合、または ISO 10218-1・10218-2 に基づいて設計・製造・設置され技術ファイルと適合宣言書が整う場合には、柵なしの協働作業が認められる。判断材料は原産国ではなく、書類とリスクアセスメントの中身だ。

協働ロボットの選定は、可搬質量とリーチと価格を並べる段階から、誰がどの権利を持っているかを買い手に問う段階へ移りつつある。今回の応酬は、その問いが法廷より先に広報の場で始まったことを示している。


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