研究と社会

XDOF、12億ドル評価でシリーズB交渉中と報道。SECに残る調達記録は2024年の833万ドル

ロボット学習データ基盤の米XDOFが12億ドル評価でシリーズBを交渉中と報じられた。ただし交渉中であり成立していない。同社の公式発表に金額の記載は一切なく、SECに提出されているのは2024年11月の Form D 1件、売却済み832万7,988ドルのみである。

ロボットの学習データ基盤を手がける米 XDOF が、12億ドルの評価額でシリーズ B を交渉中だと2026年9月4日に TechCrunch が報じた。根拠は「取引を知る複数の関係者」という匿名情報で、記事自体が XDOF と 8VC はコメント要請に応じなかったと明記している。交渉中の案件であって、成立した調達ではない。

同社の公式サイトと SEC の提出書類だけを見ると、公的記録で確認できる資金調達は1件、833万ドルである。

XDOF 公式ブログ「Announcing XDOF」のヘッダー画像(XDOF)

公式発表には金額が1つも書かれていない

XDOF のステルス解除にあたるのは、2026年6月17日公開の Announcing XDOF(著者 Philipp Wu)である。ただしこの投稿に調達額もラウンド名も投資家名も書かれていない。あるのは事業内容と、チームの出身が Covariant、Tesla、Google、Uber、Applied Intuition と Berkeley AI research だという記述だけだ。

About ページには「Backed by」として a16z、Lux Capital、Spark Capital、Thrive Capital、WndrCo の5社のロゴが並ぶ。投資家名は確認できるが、金額・時期・ラウンド区分の記載はない。 報道されている「2026年6月・7,000万ドルのシリーズ A」「従業員約60人」「顧客約20社」「年換算売上5,000万ドル近く」も、公式発表では裏が取れない。

SEC に残っている調達記録は2024年10月の833万ドル1件

米証券取引委員会(SEC)に xdof, Inc.(CIK 0002043409、デラウェア法人)名義で提出されている書類は、2026年9月8日時点で2024年11月4日付の Form D 1件だけである。

項目内容
Total Offering Amount(募集総額)$8,488,000
Total Amount Sold(売却済み)$8,327,988
Total Remaining(未売却)$160,012
Date of First Sale(初回売却日)2024-10-23
投資家数29名(非適格投資家なし)
免除条項Rule 506(b)
設立年2024年(デラウェア)

募集総額には「転換証券48万8,000ドルの転換分を含む」との注記がある。署名者は Shiyao Philipp Wu, Chief Executive Officer。Related Persons は Wu(役員・取締役)、Yide Shentu(役員・取締役)、Ding Jin(役員)の3名で、報道で共同創業者とされる Philipp Wu・Fred Shentu・Nemo Jin と対応する。当時の所在地は Berkeley、現在の求人はサンマテオ拠点である。

つまり、7,000万ドルのシリーズ A に対応する Form D は存在しない。Regulation D に依拠する募集なら初回売却から15日以内の提出が求められるため、この不在は「Reg D のセーフハーバーを使わず Section 4(a)(2) の私募として実施した」か「公開記録に出ていない」かのどちらかを意味する。いずれにせよ、7,000万ドルを公的記録で確認する手段はない。

同じ検証を Generalist AI に行ったときは、報道された「30億ドル評価」に公式発表がない一方、Form D には売却済み1億9,822万ドルという実額が残っていた。XDOF は逆で、報道された調達額に対応する書類そのものがない。

作っているのはロボットではなく、ロボットの学習データ

一方、技術側の成果物は公開されている。2026年6月17日公開の ABC-130K は、13万エピソード超・約200タスク・3,500時間の両腕テレオペレーションデータセットで、ライセンスは Apache 2.0。ハードウェアは I2RT の YAM アームによる低コストな両腕ステーションに統一されている。

これは UC Berkeley・MIT・Amazon FAR らの論文 ABC(arXiv:2606.27375)と対になっており、著者に XDOF 所属の Fred Shentu と Philipp Wu、共著者に Pieter Abbeel、Jitendra Malik、Phillip Isola、Angjoo Kanazawa が並ぶ。XDOF が担ったのは評価(evaluations)サービスの提供だと同社は説明している。

共同創業者2人の出発点は2023年の GELLO(Wu、Shentu、Yi、Lin、Abbeel)である。ロボットアームと同じ運動学構造の操作装置を3Dプリント部品と安価なモーターで作り、部品表を300ドル未満に収めた。Franka・UR5・xArm 用の設計をハード・ソフトともオープンソース化しており、About ページも「共同創業者が GELLO を書いた」ことを自己紹介の中心に据えている。

求人16件の内訳も会社の形を示す。サンマテオ側には Humanoid Engineer と全身制御のロボティクスエンジニアがあり、データ供給業からロボット本体側へも手を伸ばしている。ジャカルタ拠点の3件は「XDove Indonesia」名義で、Acquisition・Implementation・Audit・Annotation の各チームを横断する収集プロジェクトの管理にあたる。学習データの実体は、インドネシアで人が集め、人が監査し、人が注釈を付ける労働である。

12億ドルという数字が置かれる場所

ロボティクス関連の評価額は、公式発表で裏の取れる案件でも高い。周辺センシングの Lyte はシリーズ C で1億6,500万ドル、ポストマネー16億ドルを公式に発表した。他方で Agility Robotics の SPAC 上場書類では、プレマネー25億ドルに対し2025年の売上が178万ドル、監査法人が継続企業の前提に疑義を付していた。評価額と実売の距離は、SEC 書類が出て初めて外から見える。

XDOF について外部から確認できるのは、公開データセットと論文と求人、そして2024年の833万ドルまでだ。年換算売上5,000万ドルが事実なら、この分野では珍しく実売のある会社になるが、裏づける一次情報は出ていない。

日本でも「データを集める仕事」が先に立ち上がっている

学習データの収集を専業で担う事業が先に立ち上がる構図は、日本でも別の形で出ている。タイミーとジールスは2026年8月、フィジカルAI 向けのデータ収集をスポットワークの新カテゴリにする提携を発表した。案内・受付・物品の受け渡しといった現場業務を収集の設計込みで仕事にする構想で、開始時期も規模も報酬も未定である。

XDOF がジャカルタに収集・監査・アノテーションの部隊を置いているように、この産業の原資は依然として人の手であり、評価額はその供給網の上に乗っている。シリーズ B が成立するかどうかは、現時点では当事者しか知らない。


出典