産業と実装

メドトロニック、香港Cornerstone Roboticsへ7億ドル。米国外の販売権とセットの戦略投資

2026年9月1日、メドトロニックが香港の手術ロボット企業Cornerstone Roboticsへ約7億ドルを出資し、内視鏡手術システムSentireを米国外の承認済み市場で販売する権利を得ると発表した。出資比率とクロージング条件は非開示。

米メドトロニックが2026年9月1日、香港の手術ロボット企業 Cornerstone Robotics への約7億ドルの戦略的投資を発表した。同時に、同社の内視鏡手術支援ロボット「Sentire」を承認済みの米国外市場で販売する権利を得る。自社の Hugo RAS を持つメーカーが、他社プラットフォームに7億ドルを出す取引だ。

「買収」とは書かれていない。出資と販売権のセット

メドトロニックのリリースは「約7億ドルの投資には、Sentire を承認済みの米国外選定市場で販売する権利が含まれる」と書き、Cornerstone 側のリリースは「約7億ドルの戦略的投資を行い、加えて販売権を持つ」と書く。両社とも「買収(acquisition)」の語は使っていない。

出資比率、クロージング条件、買収オプションの有無、7億ドルのうち出資分と販売権対価の配分は、いずれも開示されていない。読み取れるのは、Cornerstone が独立企業として残り、メドトロニックの販売網に乗るという構図までだ。ただし布陣はM&A並みで、メドトロニック側はモルガン・スタンレーが単独のフィナンシャル・アドバイザー、リーガルはクリアリー・ゴットリーブ、Cornerstone 側は Kirkland & Ellis と環球律師事務所が就く。

Cornerstone Robotics:香港発、中国・EU・シンガポールで承認済み

Sentire Surgical System のオペレーションアーム(Cornerstone Robotics 公式サイト)

Cornerstone Robotics は香港で設立され、本社も香港に置く。創業者兼CEOは Kwok Wai Samuel Au 教授。公式リリースによれば世界3か所のR&D拠点を持ち、中国に30,000平方メートルの製造拠点を構える。Sentire は中核ハードウェア、制御ソフトウェア、アルゴリズム、独自の映像・エネルギープラットフォームまで内製したという。構成は没入型コンソールで、デュアルコンソールに対応する。

規制承認は2024年に中国NMPA、2026年5月にEUのCEマークとシンガポールHSA。いずれも一般外科・婦人科・胸部外科・泌尿器科の低侵襲手術が対象だが、米国FDAの承認はまだない。販売権が「米国外」に限られるのはこのためだ。調達も速く、同社のプレスリリース一覧には2025年1月に7,000万ドル超、2025年11月にオーバーサブスクライブで約2億ドルとある。7億ドルはその10か月後だ。

Hugo は35カ国・累計5万件。それでも1機種では足りない

Hugo RAS は6大陸35カ国以上で使われ、米国では2025年12月3日にFDAが泌尿器科手術(前立腺全摘、腎摘、膀胱全摘)向けにクリアランスを出した。根拠となった Expand URO IDE 試験は137例。手術件数の伸びは市場成長率の2倍以上で、メドトロニックの会計年度末までに累計5万件を超える見込みだという。

比較対象を置くと位置づけが変わる。Intuitive Surgical の2026年第2四半期決算では、da Vinci の設置台数は2026年6月30日時点で11,710台。前年同期の10,488台から12%増え、この四半期だけで468台(うち da Vinci 5 が246台)を設置した。「ロボット支援手術の世界的な普及率はまだ一桁台」とはメドトロニック自身の表現である。市場が未成熟なら、価格帯と構成の異なる機種を同時に持つほうが取りこぼしが少なく、自社開発だけで両方を揃えるには時間がかかりすぎる、という判断でもある。

同じ日、整形外科ロボットにも1.55億ユーロが動いた

資本が集中しているのは軟部組織だけではない。同じ2026年9月1日、米 Enovis がフランス・グルノーブルの eCential Robotics に対する拘束力のある買収オファーを発表している。前払いのエンタープライズバリュー1億5,500万ユーロ、クロージング時の現金対価は約1億7,600万ユーロ、マイルストーン達成で最大3,500万ユーロを追加、年内クロージング見込みとする。

競合の動きも速い。ジョンソン・エンド・ジョンソンは軟部組織用の Ottava を2026年1月7日にFDAへde novo 申請し、5月には胃バイパス術30例の試験で主要エンドポイントを達成、全例を非ロボット術式へ移行せず完遂したと発表した。英 CMR Surgical も2025年12月に Versius Plus の510(k) クリアランスを得ている。買収で要素技術を取り込む流れは倉庫ロボットでも起きているが(Locus による Nexera 買収)、手術ロボットではそれが承認区分と販売網の買い集めという形をとる。

国産 hinotori は、自力で販路を作る段階にある

日本では、川崎重工業とシスメックスの合弁であるメディカロイド(神戸市)が hinotori サージカルロボットシステムを開発している。2020年に国内の製造販売承認を得て発売し、2023年にシンガポール、2024年にマレーシア、2026年にベトナムで販売承認を取得。2026年7月9日には欧州医療機器規則(MDR)に基づくCEマーク認証を取得し、EU加盟国と一部の非加盟国での販売が可能になった。欧州向けには2020年にドイツで現地法人を設立している。

Cornerstone と hinotori は、EU承認が2026年5月と7月でほぼ重なる。違うのは、Cornerstone が承認直後に150カ国以上をカバーするメドトロニックの販売網を7億ドルで手に入れたのに対し、メディカロイドは現地法人を自前で立ち上げて販路を作っている点だ。手術ロボットの競争は装置の性能だけでは決まらず、承認・保険償還・トレーニング・保守を含む市場参入の速度で決まる。


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