「2026年はフィジカルAI元年」と日立の德永社長。HMAXは今年度末に売上5,000億円を見込む
日立製作所が2026年9月3日、社会インフラ向けAIソリューション群「HMAX」にデータセンター、サイバー、データ基盤、AI運用の4ソリューションを加えた。德永俊昭社長は基調講演で、HMAXが今年度末に売上5,000億円・利益率22%の事業になると見込みを示した。ロボット制御モデルの学習環境も含まれる。
「今から100年後、2026年が教科書に載っているとしたら、どんな年だったと書かれると思われるでしょうか?」。日立製作所の執行役社長兼CEO、德永俊昭氏は2026年9月3日、「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」の基調講演をこう始め、「私ならこう書きます。『フィジカルAI元年』」と続けた。
同じ日、日立は社会インフラ向けAIソリューション群「HMAX by Hitachi」に4つのソリューションを加えると発表した。講演の中盤では、HMAXを今年度末に「売上5,000億円、利益率22%の事業」に育てるという見込みも示している。

5,000億円はHMAXの今年度末の見込み
数字の範囲は正確に押さえておきたい。講演原稿で德永氏は、HMAXを「現場の機器やシステムから収集したデータをAIで分析して、社会インフラの価値を継続的に高めるフィジカルAIサービス」と説明し、「今年度末には、売上5,000億円、利益率22%の事業に成長すると見込んでいます」と述べた。対象はHMAXで、期限は2026年度末(2027年3月期)。目標というより見込みの言い方だ。利益率がどの指標(調整後EBITA率など)を指すのかは原稿に書かれていない。
2026年6月10日のHitachi Investor Day 2026(デジタルシステム&サービス事業)では、HMAXの売上は2025年度実績で3,000億円、2025〜2027年度のCAGR目標は50〜60%とされた。3,000億円から5,000億円なら約67%増で、目標の上限を上回るペースだ。DSSセクターの「AI関連売上」(モダナイゼーションとAIサービスの合計、2025年度8,000億円)は別の集計である。
4つのうち3つは、業種を問わない「共通ソリューション」
HMAXは、業種ごとの「ドメイン対応型」(Mobility、Energy、Industry、Finance)と、それらを横断して支える「共通ソリューション」の2層で組まれている。今回の追加は次のとおり。価格はいずれも個別見積。
| ソリューション | 区分 | 中身 | 提供開始 |
|---|---|---|---|
| HMAX Data Center | ドメイン対応型 | 電力・IT・冷却設備をベンダー横断で統合監視し、AIで障害の相関を分析する。第1弾は「HARC for Data Center」 | 北米 2026年9月3日/日本向け 2027年1月予定 |
| HMAX Cyber | 共通 | IT・OT統合SOCでの24時間365日監視、脆弱性診断、復旧支援 | 2026年9月3日(一部は順次) |
| HMAX Data Fabric | 共通 | 現場データと熟練者の暗黙知をオントロジーで体系化し、ナレッジグラフとして蓄積する | 2026年9月3日 |
| HMAX AI Operations | 共通 | AIエージェントの性能・ガバナンス・セキュリティ・コストを監視し、ハルシネーションを抑える | 2026年9月3日 |
あわせて、IT・OT・プロダクトの技術者による「Physical AI FDE(Forward Deployed Engineer)Team」が顧客の現場に入る「Physical AI FDE サービス」も始まった。講演で德永氏が「3つのHMAXのラインアップ」としたのはData Center、Cyber、FDEサービスで、Data FabricとAI OperationsはFDEサービスが使う基盤として紹介された。
HMAX Cyberは、Anthropic、OpenAI、Google Cloudとの連携によるフロンティアAIを脆弱性の早期発見に使い、リリースの関連情報にはAnthropicの「Claude Mythos Preview」を使った重要インフラのセキュリティ検証も挙がっている。
日立の定義では、フィジカルAIはロボットの制御までを含む
日立は2026年3月のフィジカルAI体験スタジオ開設のリリースで、フィジカルAIを「現場のデータから得られたAIの分析・判断を、ロボットの制御や設備の自動操作といった具体的なアクションにまでつなぐ技術」と定義している。HMAXの中では「ITとOTをつなぎ高度な分析・判断と現場での正確なアクションを一致させる」技術と位置づける。
德永氏は講演でこれを「自動化」と区別した。「自動化」は「人があらかじめ決めた通りに機械を動かすこと」で、フィジカルAIが実現するのは機器やシステムが自ら判断して動く「自律化」だという。実装は4段階(物理法則の学習、デジタルツインでの試行錯誤、現場固有のルールの学習、現場での実践)に分かれ、NVIDIAが注力するのは前半2つ、日立が価値を出せるのは後半2つだという。
講演で挙がったHMAXの実例は、鉄道保守コストの15%削減、半導体計測装置のデータ活用、豪州の大規模蓄電池で、話の中心はロボットより社会インフラの設備だった。
ロボットに近いのは、学習環境と協調制御の検証
それでも、今回の発表にはロボットと直接つながる部分がある。HMAX Data Fabricのサービス一覧には「Physical AI 開発・運用・環境提供サービス」があり、「Agentic AIを使ってロボットなどを制御するモデルの学習と、それを活用するAgentを開発・運用する環境を提供」すると書かれている。現場から集めて構造化したデータを、ロボット制御モデルの学習に回す経路を用意したことになる。
研究面では、日立が2026年3月に現場で自ら学ぶフィジカルAI技術を発表している。早稲田大学との「深層予測学習」をもとに、動作指示を従来の毎秒10回程度から100回に上げた数十万パラメータの小型モデルで、ワイヤーハーネス組付けのような柔軟物の作業を狙う。使ったロボットの機種と、速度・品質の改善値は公表されていない。
2026年7月16日のNVIDIAとの協業発表では、日立の基盤モデル「IWIM」をNVIDIA Cosmosと接続してデジタルツインで事前検証し、制御バルブ、四足歩行ロボット、小型カメラロボットなど制御方式の違う機器の協調制御を試す。「産業用ロボット領域などのグローバルリーダー企業をはじめとする複数社」とエコシステム参画を協議しているとするが、社名は出していない。
国内大手は、組織と売上の両側からフィジカルAIに入っている
国内の大手では、パナソニック ホールディングスが10月1日付で「AI・ロボティクス研究開発本部」を新設する。AI・ロボティクスの人材を集める組織再編で、人員や予算は公表されていない。日立はHMAXの売上と成長率KPIを開示している。研究開発の器を先に作る会社と売上で成果を測る会社とでは、外から確かめられる材料が違う。
日本精工とアトムのMOUは工場を学習データの収集現場に使い、GENIACのロボット基盤モデル公募では13件が採択された。日立の言う第3段階の中身は、こうしたデータと機体が現場に届いてから問われる。
德永氏は講演の終盤、実現には「フィジカルAI基盤のオープン性、ソブリン性の確保」「新たな社会制度の設計」、そして「社会を構成する人々の理解」というハードルがあると認めた。HMAXの5,000億円のうち、ロボットや自律機械を実際に動かすサービスがどれだけを占めるのか。今回の開示から読み取れるのはここまでである。
出典
- 日立、フィジカルAIの社会実装を加速させる「HMAX」を拡充(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-09-03
- データセンターインフラの統合運用を実現するソリューション「HMAX Data Center」を提供開始(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-09-03
- AI時代の事業継続を支援するオペレーショナルレジリエンスサービス「HMAX Cyber」を提供開始(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-09-03
- 現場全体の自律的な最適化に向け、HMAX Data Fabricなど新たな基盤・運用管理ソリューションを提供開始(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-09-03
- Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN 基調講演「フィジカルAIで進化する社会インフラ」(日立製作所) — 2026-09-03
- 同 基調講演 講演原稿付き資料(日立製作所 PDF) — 2026-09-03
- Hitachi Expands HMAX to Accelerate the Deployment of Physical AI(Hitachi Global) — 2026-09-03
- Hitachi Investor Day 2026 デジタルシステム&サービス事業(日立製作所 PDF) — 2026-06-10
- 日立とNVIDIA、フィジカルAIの統合制御による、現場全体の自律化とHMAXの進化に向けて協業(日立製作所 ニュースリリース PDF) — 2026-07-16
- 日立、フィジカルAIの社会実装をお客さまと協創する「フィジカルAI体験スタジオ」を開設(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-03-23
- 日立、現場で自ら学びながら動作を最適化し、複雑作業を自動化するフィジカルAI技術を開発(日立製作所 ニュースリリース) — 2026-03-23
- パナソニック ホールディングス 組織変更・執行役員への業務担当委嘱・人事異動について(Panasonic Newsroom Japan) — 2026-08-28